嘘と欲求

 じろじろ見られ好奇の目に晒されていることに気づいてしまうと、翔真は今すぐに逃げ出したい衝動に駆られた。殻に閉じこもって誰の目にも触れない場所へ瞬間移動してしまいたい。

「ここだと話しにくいから、ちょっと来て」

 ついてくるよう促した伊織が先に教室を出て行く。すぐに動けずに見送ってしまった翔真は、固まっている思考をフルスロットルで回した。

 まずい。人に聞かれたくない内容なら、ますます裏での行動に関しての可能性が高まってしまった。まずい、まずい。これはまずい。多分、ほぼ確定だ。それ以外あり得ない。いくら考えても、他に思い当たる節などない。まずい。非常にまずい。どうやって誤魔化せばいい。何のことかとしらばっくれるしかないだろうか。もしくはこのまま、ついていかない選択肢も。

 決断しかけて、いやいやと首を左右に振る。それでは明らかに変だ。逆効果だ。何か後ろめたいことがあるのではないかと勘繰られ、やっぱりそうだったのかと思われる気しかしない。ここはもう、大人しくついていくしかない。いくしかない。いけ。

 意を決した翔真はのろのろと席を立ち、刺さる視線とは決して目を合わさず、肩を縮こまらせて教室を出ようとした。

 躓いた。ちゃんと上げたつもりの足が、扉のレールの僅かな段差に当たって躓いた。格好悪くつんのめり、格好悪い姿勢で廊下に飛び出してしまう。動揺しているのを全身で表すような鈍臭さだった。

 爪先を引っかけた瞬間、自分でも驚くほどに俊敏な動作で何事もなかったように装いはしたが、内心では気が気ではなかった。ダサい場面を多数の人に見られたかもしれない。恥ずかしくて振り向けない代わりに耳を澄ました。教室から冷笑などは聞こえなかった。

 パニックに陥っている。一旦落ち着こうと意識して深呼吸を繰り返した。吸って、吐く。吸って、吐く。それから、伊織の後を追うために足を一歩踏み出した。同時に顔を上げると、またしても翔真は驚愕し、口から情けない声が漏れそうになった。音を喉の奥で押し潰す。