嘘と欲求

 前列になると死するかの如く大真面目に臨む翔真は、むくむくと膨れ上がる不安に襲われた。もう一度くじを引き直したくなったが、そんな勝手な真似は許されない。変更したいと申し出る勇気もない。これを選んだ自分の勘を信じ、失敗すれば潔く死ぬしかない。

 人知れず暗澹とした気持ちに陥る。先程から悪い想像ばかりしてしまう。翔真はくじを指先でギュッと摘んだ。悲観しすぎてはダメだと意識して良いイメージを思い描く。

 伊織の後ろで伊織を観察し、そこで得た情報を親友の情報としてSNSに投稿し、いいねを貰う。ありきたりなものではない、興味を注がれるような特種であれば、もっと多くのいいねが貰えるかもしれない。いつ見てもゼロではなくなるかもしれない。

 伊織に関することは少しも見逃したくない。授業中であっても伊織を知りたい。不審に思われずに後ろから伊織を見ていたい。この手で選んだくじは、後列の数字が書かれたくじだ。絶対そうだ。絶対、絶対、後列だ。

 思わず息が乱れてしまいそうなほど必死に祈りながらも、どこか冷静な部分も残っている翔真は、伊織に視線を送った。席替えに本気になりすぎている翔真と温度差のある伊織は、くじを机の上に置いたまま何をするでもなく暇そうにしていた。

 翔真は伊織の机上にぽつんと置かれているくじを睨める。前列だ。絶対、絶対、前列だ。前列前列前列。呪うように念を飛ばした。翔真の周りだけ空気が淀んでいるようだった。

 それぞれの思惑を胸に、全員がくじを引き終えた。誰からともなく紙を広げる。伊織がくじを手にするのを見て、翔真も倣った。恐る恐る広げる中で、一足先に数字を目にした生徒から歓喜だったり落胆だったりの感情が迸った。

 翔真も書かれた数字と出会した。五、だった。黒板の数字と照らし合わせる。左から順に見た。目的の数字を探し出した瞬間、思わず悲鳴を上げそうになった。咄嗟に口を押さえ、手元のくじを見て、黒板を見て、何度も確かめた。確かめた。何度確かめても、間違いなかった。身体がずっしりと重たくなるのを感じた。翔真の引いたくじは、一番前の廊下側の席を示していた。