嘘と欲求

 個人的に気になる伊織は、固く口を閉じていた。かったるそうにしているわけではないが、興味はなさそうである。

「先生の手間を取らせないようにくじも作りました」

「作ったんですか?」

 男子生徒が出来たてほやほやの紙箱とくじを見せてアピールすると、目を瞬かせた担任からごもっともな突っ込みが入った。担任のリアクションは控えめだ。前向きな回答は得られないかもしれない。

 翔真はそれで良かったが、やる気満々でくじまで作った男子生徒はそうもいかないようだ。表情が不安げに曇りかけた。が、派手なリアクションは取らない担任が、雲を晴らすような軽やかな声で男子生徒に光を差した。

「分かりました。やりましょうか、席替え」

「え、いいんですか?」

 拍子抜けしそうなほどあっさりと許可が下りた。自分から発言していながら逆にいいのかと質問を投げ返す男子生徒に、いいですよ、と今度は即答してみせる担任がおかしそうに笑う。

 念願の席替えが決行されることになり、教室内が一気に騒めき始める。盛り上がるクラスメートの中で、翔真は一人微動だにせず息を潜めていた。担任は断らなかった。クラスメートも大多数がにこにこと破顔してテンションを上げている。素直に席替えを受け入れるしかない。

 伊織の後ろになれるかなれないか。運を味方につけられるかつけられないか。翔真は意味もなく手を摩り、ごくりと唾を飲んだ。運試しと称して、鬱々せずに軽い気持ちで楽しめばいいのに、なかなか意識を変えられない。

「簡単な図と人数分の数字を黒板に書きますので、みなさんはくじを引く順番を決めてもらえますか?」

 担任の指示を受け、発起人の男子生徒が自ら動いて仕切り始めた。担任は生徒に背を向け、黒板にチョークを走らせる。