嘘と欲求

「あー、やっとできた。ギリギリ。これで今日絶対席替えするからな」

「良い感じの席、当たりますように」

「俺も当たりますように。欲を言えば一番後ろの席でありますように」

「てかこれ、お手製の紙箱、折ってくれてありがとう」

「全然。めちゃくちゃ折るの簡単だし気にすんな」

 集まっていた男子生徒が全力を注いでいたくじ作りが終わりを迎えたようだ。翔真はあまり顔を動かさずに彼らを見遣った。囲っている机の上には四角い紙箱と折り畳まれた紙。男子生徒は即席の箱の中に即席のくじを放り込み始めた。本当に席替えをする羽目になってしまいそうだ。

 登校してきてから一発目のチャイムが鳴った。仲の良い友達と固まって話し込んでいた生徒が席へ戻っていく。協力してくじを作成していた人たちも着席する。空いていた席が順に埋まると、程なくして担任教師が入ってきた。

「おはようございます。SHRを始めます」

 教卓の前に立ち、簡単な挨拶を済ませた担任が連絡事項を伝えていく。今日もこれと言ったイレギュラーはない。決められた時間割の通りに授業を受けるだけである。

「先生、今から席替えしませんか?」

 担任が話し終えてすぐ、挙手をしながらそう提案した生徒に視線が集まった。一生懸命くじを作成していた男子生徒だ。

 彼の案に、一緒になってくじを作っていた人たちが即座に賛同する。遅れて周りもポジティブな反応を示し始める。気分は乗らないが嫌だと言えるはずもなく黙っている翔真を含め、良いも悪いも言わず声を上げない生徒もいた。

 誰も嫌な顔はしていなかった。無言の肯定か、やってもやらなくてもどちらでもいいという中立的な立場で、人が生み出す流れに身を任せようとしているのか。