翔真は伊織の腹の中を探ってやろうと目を上げた。読書中の姿を食い入るように観察する。伊織は本の世界に入り込んでいる。瞳が動く。上から下へ。そしてまた、上から下へ。文章を目で追っている。指先が滑らかにページを捲る。上から下へ。再び、上から下へ。繰り返す。いつまでも繰り返す。ひたすら文字を追っている。翔真の視線に気づく様子もなく、ひたすら没頭している。一体何を読んでいるのだろう。伊織を夢中にさせている物語は、一体どのようなものなのだろう。
教室の人口密度が増していく。話し声も増していく。伊織は顔を上げない。集中力は途切れない。本を読み始めたら物凄い集中力を発揮する親友、と翔真は脳裏に書き留めた。しかし、情報としては弱かった。読書家であれば誰もがそうに違いないのだ。珍しくとも何ともない。このような脆弱な情報では当たり前のように流されてしまう。
見つめるだけでは得られることに限界があった。声をかければ話が早いのだろうが、翔真にその勇気はない。仮にもし話しかけることができたとしても、口調や動作がぎこちなくなってしまうのが目に見えている。
話すのは上手くない。下手に距離を縮めようとして不審がられてしまったら都合が悪い。いつか自然な流れで会話ができるようになる日が来るのを願って、今は大人しく外から伊織に関するあれこれを掻き集める方が賢明だ。無理をするべきではなかった。焦ってこけるのだけは避けたい。
本の世界に没入していた伊織が、机に置いていた栞を片手に顔を上げた。黒板の上を見ているようで、翔真もつられて目を向ける。時計だ。針はあと数分でSHRが始まる時間を指していた。
伊織に視線を戻す。本に栞を挟み、壊れ物を扱うように丁寧に机の中に片したのを見届けた翔真は、握ったままだったスマホの電源を切った。伊織と違い、サッとポケットに押し込んで片す。
教室の人口密度が増していく。話し声も増していく。伊織は顔を上げない。集中力は途切れない。本を読み始めたら物凄い集中力を発揮する親友、と翔真は脳裏に書き留めた。しかし、情報としては弱かった。読書家であれば誰もがそうに違いないのだ。珍しくとも何ともない。このような脆弱な情報では当たり前のように流されてしまう。
見つめるだけでは得られることに限界があった。声をかければ話が早いのだろうが、翔真にその勇気はない。仮にもし話しかけることができたとしても、口調や動作がぎこちなくなってしまうのが目に見えている。
話すのは上手くない。下手に距離を縮めようとして不審がられてしまったら都合が悪い。いつか自然な流れで会話ができるようになる日が来るのを願って、今は大人しく外から伊織に関するあれこれを掻き集める方が賢明だ。無理をするべきではなかった。焦ってこけるのだけは避けたい。
本の世界に没入していた伊織が、机に置いていた栞を片手に顔を上げた。黒板の上を見ているようで、翔真もつられて目を向ける。時計だ。針はあと数分でSHRが始まる時間を指していた。
伊織に視線を戻す。本に栞を挟み、壊れ物を扱うように丁寧に机の中に片したのを見届けた翔真は、握ったままだったスマホの電源を切った。伊織と違い、サッとポケットに押し込んで片す。



