嘘と欲求

 立て続けにスマホが通知を知らせた。挨拶もなしに伊織は続ける。文字だけなのに、直接話しかけられているのではないかと思うほどの臨場感を覚える。伊織の手のひらの上で転がされている。踊らされている。

【また今度、西原の首、絞めさせて】

 ああ、と翔真は力なく呻吟した。妄想は、現実にはならない。伊織と、親友にはなれない。初めから明確だった。殺人鬼とストーカーの犯罪者予備軍など、親友よりも仲間の方が正しい。伊織もそう言っていたではないか。仲間だと。仲間は、親友を優に超えている。

 伊織との縁を切れずに結んだ糸が、何重にも首に巻きつけられた。引き裂けず、翔真は一人嘔吐きそうになった。細い糸のはずなのに、分厚い鎖のように重たく頑丈で、全く歯が立たない。

 縁という名の糸で、翔真の首を絞めているのは伊織だった。翔真を認めて、伊織は首を絞めている。誰にも認められなかった翔真を、伊織だけは認めている。犯罪者予備軍仲間だろうが何だろうが、伊織だけが。

 自分には、伊織がいる。同じ犯罪者予備軍である伊織がいる。仲間だと認めてくれた伊織がいる。取り柄のないどうしようもない自分を、伊織は仲間だと認めてくれた。いいねを貰うよりも遥かに気持ち良かった。途方もない承認欲求が満たされていった。

 何も面白くないのに、翔真の口角が微かに持ち上がった。自分には伊織しかいない。伊織だけだ。伊織だけが、自分を認めてくれるのだ。

 伊織に仲間意識を持たせるべきではなかったと一度した後悔が、どろどろと跡形もなく溶けていく。密かに感じていた孤独が、みるみるうちに埋まっていく。伊織を親友に選んでつけ回していなければ、今でも空いたままだった穴。

 歪な笑みを浮かべる翔真は、読めずに放置してしまっていた『殺戮にいたる病』を手繰り寄せた。仲間である伊織が読んだ本。伊織が面白いと評価していた本。

 翔真は躊躇なく表紙を開いた。自分を認めてくれた伊織が見た世界を、今すぐにでも知りたくなった。伊織に関連する事柄の全てを、今までよりも強烈に、知りたくなった。何度も首を絞められ、死の間際を彷徨う羽目になろうとも。



END