嘘と欲求

 何か裏があるに違いない。伊織の中で計画があるに違いない。もしかしたら、伊織は自分を試しているのかもしれない。メモ用紙を処分して関わらないようにするか、しないか。

 互いの関係をどうするか、どのような形にするか、伊織は翔真に選ばせている。暴露された性癖をあっさりと認め、首を絞めて欲求を満たし、自身の隠してきた異常性を曝け出した上で、翔真に選ばせているのだ。

 どちらを選択するのが正解か。相手には暗い衝動がある。部分的に見れば、今すぐ破り捨てるのが賢明だ。翔真はメモ用紙を両手の指先で摘んだ。伊織と関わり続けると更に酷い目に遭うかもしれない。指先に力を込めた。破れ。捨てろ。これ以上関わるべきではない。

 言い聞かせるも、なかなか思い切れず、紙に薄らと皺が増えただけだった。なぜだろう。いつか本当に人を殺すかもしれない人なのに。なぜ切り捨てられないのだろう。自分はどうしたいのだろう。伊織とどうなりたいのだろう。

 すぐに結論が出せないまま、気づけば家に辿り着いていた。部屋へ直行し、回転椅子に腰掛けてからも長考する。決められない。どちらを選べば自分にプラスに働くのか分からない。

 紙に書かれた番号を、徐に指先でなぞった。僅かな凹凸を感じ、間接的に伊織に触れているような妙な気分になった。触発されたかのように、都合の良い妄想が脳内を埋め尽くし始める。

 伊織と連絡を取り合って、遊ぶ約束をする。ある日は、互いの行きたいところに行って、したいことをして、食事を摂って、雑談をして、手を振って別れる。

 またある日は、書店に寄ってそれぞれ本を購入し、どちらかの家で共に読む時間を設けて、休憩がてらどこかに食べに行って、伊織の好きな本の話などをして、たまに笑い合って、楽しく穏やかな充実した時間を過ごす。未だ嘗て経験したことのない青春。壮大な妄想。