嘘と欲求

 でも、伊織の言っていることは間違っていない。SNSを見なければ、消してしまえば、どのような罵声を浴びせられているかも知らずに済む。他人と自分を比較して落ち込まずに済む。いいねに一喜一憂せずに済む。情報量の多さに疲れずに済む。

 削除しないメリットよりも、削除するメリットの方が簡単に浮かび上がった。SNSを続ける理由を見出せなくなってしまった翔真は、静かに口を噤む。ぐうの音も出なくなっていた。どう頑張っても、口では伊織に勝てない。

「周りの反応一つで不安定になる西原は、絶望的に向いてないよ、SNS」

 最後に一言で止めを刺した伊織が、後は翔真の判断に委ねるかの如くスマホを差し出してきた。話は終わりのようである。

 項垂れていた翔真は、視界に入ったスマホを考えるよりも先に受け取っていた。伊織は二度も翔真の手を止めはしなかった。

 手に馴染む確かな感触に安心してしまう翔真は、まるで息をするように、操られたように、SNSを開いていた。スマホを触ったらまずSNSを閲覧するのがルーティン化している。助言として削除を勧めた伊織が目の前にいても、一時的に盗られたスマホを返されたばかりであっても、変わらなかった。変えられなかった。

 スマホの画面を注視すると、周りの景色が見えなくなる。聞こえていた音も遠くなる。伊織の存在すら、あっという間に希薄になる。翔真の眼前が、意識が、世界が、リアルからネットに、一瞬で切り替わる。

【学校名が特定されてる。犯罪者予備軍育成学校じゃん】

【投稿を見る限りではカケルも同校のはずだから、個人は結構絞れそう。カケルが本名かは分かんないけど】

【カケルよりも雨宮伊織の方が個人的にヤバそう。盗撮か殺人か、だったら、命を奪う殺人の方が最悪なイメージだし】

【学校もこんな問題児を入れるなんて見る目なくない?】