嘘と欲求

 趣味が被れば、親近感を抱きやすい。距離もきっと、縮まりやすい。犯罪者予備軍仲間だと言って近づくよりも、何倍も何十倍も安全で健全な策。

 仲間である翔真を読書の沼に上手く落とせたら、後は丁寧に懐かせるだけ。伊織は野良猫を懐かせている。人を懐かせるのも容易いのではないか。全ては翔真の想像だが、あながち間違いでもないのではないか。

「ここまで言えば、もう理解してくれたよね」

 伊織の声に、いつの間にか俯けていた顔を持ち上げた。暗い瞳が、翔真を見据えていた。

 今目の前にいるのは、危険な殺人欲求を持っている人。まだ伊織の口からそうだと断言されたわけではないが、そうでなければ違和感を覚えることばかりだ。暴露されたことは本当だと思う方が、辻褄は合っている。

「……やっと、分かった」

 そうなのかもしれない、が、そうだ、に変わったのを実感した。それでも、不思議と、嫌悪感や不快感、強い恐怖心などは湧かなかった。殺人欲求を遠回しに認めても、伊織は何でもないことのように普通なのだ。

 暴かれた秘密を自らも打ち明け諦めの境地に陥るでもなく、バレたからと開き直って豹変するでもない。終始顔色に変化が見られない。自分のことを話しているはずなのに他人事みたいな熱のなさは、翔真の知っているクールな伊織でしかないのだった。

 互いの見えない裏側で、何を企み何を考えどんな行動を取っていたのか判明したこの状況で、変化がなさすぎるのはある意味恐ろしいが、伊織であればない話でもないのかもしれないと根拠もなく翔真は思った。

「分かってくれたところで、西原に一つ、お願いがあるんだけど」

「え、お、お願い……?」

 口にしながら、翔真の視線が上へ行った。ゆっくりと立ち上がった伊織を、訳も分からず見上げる。エアコンの稼働音と、伊織が床を踏む微かな音が、なぜか酷く不安を煽るようだった。