嘘と欲求

 息が詰まりそうなほどに長い沈黙の末、先の先のそのまた先の展開を想像しているようでもあった伊織が、徐に唇を開くのを目にした。どうするのか、結論が出たようだ。

 堂々巡りするばかりで思考を放棄しつつあった翔真は、ようやく、伊織の仲間にされた所以が判明するかもしれないと、少しの期待を込めて伊織を見つめた。抑揚のない声が耳を打った。

「俺を親友にして、付き纏ったり盗撮したり、西原はストーカーみたいだよね」

「……え?」

「その行動を客観的に分析して区別するなら、西原は俺と同類だよ」

「……あ、ま、まさか、な、仲間って、ど、同類って、まさか」

「ネット上の奴らが、声高に罵ってたよね。俺と西原のこと。犯罪者予備軍って」

 金属バットか何かで頭蓋骨を殴られたような強い衝撃を受けた。ネット上に溢れた数々の誹謗中傷の中から、関連するワードが水面からひょっこりと顔を出すように鮮明に頭に浮かぶ。ストーカー。盗撮魔。殺人鬼。犯罪者予備軍。

 翔真はごくりと唾を飲んだ。仲間であり、同類であると断言する伊織の口から出た、犯罪者予備軍という言葉。嘘か真か定かではなかった噂が真実であることを、伊織の言葉と表情が物語っていた。

 伊織は、第三者の暴露した事柄の通り、殺人欲求を秘めている。でなければ、ストーカーみたいな翔真に対して、仲間だとも同類だとも思わないはずだ。

 殺人欲求があるのも、ストーカー気質であるのも、一歩間違えれば完全な犯罪者になり得る要素を持っている犯罪者予備軍だ。だから、仲間であり、同類だと思った。だから、自分と同じ犯罪者予備軍だと言える翔真に、自身の趣味である読書に誘おうとした。本を読まない翔真でも読めそうな本を直感で選び、賭けに出てまで。