初めて見た伊織の家は、どこにでもあるような普通の家だった。特別豪邸でもなく、かといって質素でもない一般的な家屋。翔真の家と大きな差異はないように見えた。
学校では近寄りがたい孤高の存在だが、住んでいる家を見る限りでは親しみやすそうなイメージだ。勉強も運動も何でも卒なくこなす伊織も、蓋を開けてみれば翔真と同じ一般家庭の子供であるのを知った。
家の玄関を開けた伊織が、入るよう翔真を促した。伊織の住まいを見上げていた翔真は、顎を下げてぎこちなく頷く。黙って伊織の後を追っていたら、まさかずっと知りたかった伊織の家に連れてこられるとは。翔真は身体が強張った。
眼前には伊織の住処。足を踏み入れたら、そう簡単には出られない。それでも、スマホを返してもらうためには、伊織に従うしかない。元々伊織を見つけて話をするのが目的だった。結果オーライであるとプラスに考え、翔真は一歩踏み出した。
「お邪魔します……」
猫背になりながら中へ入ると、その家庭特有の匂いが鼻を掠めた。欲求に負けて嗅いでしまった伊織の制服の匂いと同じ匂い。罪悪感が募った。意思などない香りから、お前の罪はまだあると咎められている気分になった。
恐らく伊織は、脱いだ制服の匂いをこっそり嗅がれたことには気づいていない。翔真の秘密のあらかたを暴かれてしまったとしても、当時の気狂いな変態みたいな行動だけはバレていない。
このままなかったことにしてしまえばいい。知られていないのだから、わざわざ自供する必要などない。一時的に抜け殻となった服の匂いを嗅いだかどうかは、実際にその様子を見ない限り疑惑を持たれはしないはずだ。
知られると困る不都合な事実を、伊織の目を盗んで摘み取り懐に収める。何事もなかったように息をする。鼻から空気を吸う度に、ここに来てまだ罪を隠蔽しようとする翔真を責め立てているようなきつい香りが通り過ぎた。
学校では近寄りがたい孤高の存在だが、住んでいる家を見る限りでは親しみやすそうなイメージだ。勉強も運動も何でも卒なくこなす伊織も、蓋を開けてみれば翔真と同じ一般家庭の子供であるのを知った。
家の玄関を開けた伊織が、入るよう翔真を促した。伊織の住まいを見上げていた翔真は、顎を下げてぎこちなく頷く。黙って伊織の後を追っていたら、まさかずっと知りたかった伊織の家に連れてこられるとは。翔真は身体が強張った。
眼前には伊織の住処。足を踏み入れたら、そう簡単には出られない。それでも、スマホを返してもらうためには、伊織に従うしかない。元々伊織を見つけて話をするのが目的だった。結果オーライであるとプラスに考え、翔真は一歩踏み出した。
「お邪魔します……」
猫背になりながら中へ入ると、その家庭特有の匂いが鼻を掠めた。欲求に負けて嗅いでしまった伊織の制服の匂いと同じ匂い。罪悪感が募った。意思などない香りから、お前の罪はまだあると咎められている気分になった。
恐らく伊織は、脱いだ制服の匂いをこっそり嗅がれたことには気づいていない。翔真の秘密のあらかたを暴かれてしまったとしても、当時の気狂いな変態みたいな行動だけはバレていない。
このままなかったことにしてしまえばいい。知られていないのだから、わざわざ自供する必要などない。一時的に抜け殻となった服の匂いを嗅いだかどうかは、実際にその様子を見ない限り疑惑を持たれはしないはずだ。
知られると困る不都合な事実を、伊織の目を盗んで摘み取り懐に収める。何事もなかったように息をする。鼻から空気を吸う度に、ここに来てまだ罪を隠蔽しようとする翔真を責め立てているようなきつい香りが通り過ぎた。



