嘘と欲求

 静まり返った空気が、翔真の顔を俯かせる。全部おしまいだ。全部燃えてなくなっておしまいだ。充実した高校生活を送っていたカケルは、リアルの世界を生きる偽物の親友を前に、確実に死んだ。

「大変なことになってるね」

 焦りも怒りも感じない声だった。まるで他人事のようだった。炎上を目の当たりにしても、翔真がSNSでどんな立ち振る舞いをしていたかを目にしても、伊織は何事もなかったように落ち着いている。

 伊織の炎上も自分の行為も、趣味の悪い妄想だったのではないかと疑ってしまいそうになった。殺人欲求。犯罪者予備軍。イケメンな親友。見たり打ったりしていなければ、頭に残るはずもないであろう情報。間違いなく、伊織は炎上している。翔真と共に。犯罪者予備軍として。

 じめじめと暗くなる翔真の目の前で、冷静な伊織が当たり前のようにスマホをポケットにしまった。流れるような窃盗行為。理解するのに数秒かかった。

「え、あの、俺の、スマホ……」

「返してほしかったら、ついてきて」

 踵を返した伊織が、余裕のある所作でマイペースに歩き出した。スマホを盗られ狼狽える翔真は、棒立ちとなって伊織の背中を見つめる。どんどん遠くなっていく。自分のスマホも遠くなっていく。必需品のスマホ。大事なスマホ。

 翔真は弾かれたように伊織の背中を追いかけた。どこへ行くのかも分からないまま、スマホを取り返すために追いかけた。完全に、伊織に主導権を握られてしまっていた。