嘘と欲求

 そんなことがあるのか。嫌でも目に入ってきそうなものを、誰かが教えてくれそうなものを、伊織は今の今まで知らなかっただなんて。

 伊織も炎上を知っている前提でいた翔真は、予想外の展開を前に目をうろちょろさせてしまった。

 もうバレていると思い諦めていたが、伊織は炎上を知らなかった。翔真に親友にされているのも知らないはずだ。翔真にとって都合の悪い情報を持っていない伊織に、開示すれば不利になる秘密を自ら差し出す必要があるのか。ネット上の出来事を知らないのなら、知らないままでいてくれた方が。

 この期に及んで保身に走る翔真は、火だるまになって燃えているのを伝えるだけ伝え、手を貸さずに伊織を見捨てようとしていた。翔真自身も燃え上がって死にかけているのに、自分には伊織しかいないと藁にもすがる思いだったのに、秘密がバレていなかったのを知っただけで、あっさりと手放そうとしていた。

 命よりも秘密。伊織よりも秘密。伊織を親友にし、盗撮もし、いいねを稼ごうとしていたなど、本人に一番知られたくない。

「し、知らないんだ。なら、知らない方が、いいかも。あ、はは、呼び止めて、悪かった。あはは。じゃ、じゃあ、俺は、これで……」

「説明もなしに逃げるつもり?」

「あ、いや、逃げるなんて、そんな……」

「中途半端なところで話すのやめないでくれる?」

 有無を言わせない口調に、じりじりと後退りしていた足が止まった。下手くそな笑みを貼り付けたままの翔真の額を、粘ついた汗がだらだらと伝う。日光が二人を焼いている。汗が止まらなくなる。全身が燃えそうだった。リアルでも燃えるなど、洒落にならなかった。

 汗だくになっている翔真と違って、伊織は汗一つかいておらず涼しげだった。余裕そうにさらっとしているのを目の当たりにすると、なぜか嫉妬心にも似た訳の分からない感情が湧き上がってきた。ますます身体が熱くなる。汗を飛ばすように首を振った翔真は、負けじと強気に出ていた。目的が何だったのか分からなくなっていた。