【side蓮】
扉を開けた瞬間、彩葉が知らない男に触れられている光景が視界に飛び込んできた。
それだけで、頭の中が真っ白になる。
思考が止まるとか、冷静さを失うとか、そんな生易しいものじゃない。
目に入った瞬間、全部が吹き飛んだ。
俺が彩葉のもとへ駆け寄る間、榛名は動ける敵を一人ずつ確実に捌いていく。
怒号も呻き声も耳に入っているはずなのに、意識は全部、腕の中にいる彩葉に吸い寄せられていた。
小さく震える身体、掴まれた服の裾、必死に縋る指先。
俺が来るまでの間。
ここに閉じ込められて、知らない男たちに囲まれて。
触れられて、逃げ場もなくて。
想像しただけで吐き気がする。
…………俺が、あの時止めていれば……。
遅すぎる後悔が、今になって胸を締め付けた。
それでも、まだ終わっていない。
動ける敵が周囲に残っている。
名残惜しさと、離したくない衝動を無理やり押し込めて、相手を突き飛ばしたまま彩葉を守るように前に立つ。
今は、やることがある。
廊下の奥から、複数の足音が重なって聞こえてくる。
黒蛇会、どんだけいるんだよ……。
数は──四、いや五。
武器は持っていない、それで十分だった。

