そのキス、契約違反です。





「……お前…何がしたい」



気づけば、そう口にしていた。

悠真は肩越しに黒蛇会を一瞥する。



「見たら分かるよね。今、仲間割れしてんの」



いや、んなこと言われても…。



「俺は別にあの子を傷つけたいわけじゃない」



その声に、嘘はなかった。



「状況が変わった。黒蛇会の連中が変な気を起こす前に行って。無駄死には、嫌いだから」



……敵でも、味方でもない。

ただ、自分の美学で動く男。



「早く行け」



背中を押すように、そう言われた気がした。

後ろで黒蛇会のざわめきが膨らむ。


でも、もう振り返らなかった。


最上階、一番奥の部屋。



——間に合え。


頭の中で、それしかなかった。

嫌な想像が勝手に浮かぶ。



彩葉は強い。

それはわかってる。



でも——あいつは、女だ。

それを“弱点”として見てくる連中が、裏社会にはごまんといる。



一番奥の部屋の前に辿り着くと、中から彩葉のものと思える声。



「嫌っ……、離して!!」



血の気が、一気に引いた。


榛名と視線を合わせて同時に思い切り扉に蹴りを入れる。



扉が、鈍い音を立てて開いた。