そのキス、契約違反です。





【side蓮】





……彩葉は、俺と、囚われていた人間たちを助けるために、たったそれだけの理由で。

一人で、あいつについて行った。


腕を伸ばせば止められたかもしれない。

声を張り上げれば、場を壊すことだって出来たかもしれない。

暴れて、引きずってでも、連れ戻すことだって。


それなのに。

俺は──動けなかった。


足が床に縫い止められたみたいに重くて。

喉が塞がったみたいに声が出なくて。

「行くな」という言葉ひとつ、言えなかった。



それは言い訳しようのない事実で。



「……くそ」



──君が来てくれるなら、何人も助かる。


彩葉が選んだ、あの選択。

誰かを救うために、自分を差し出すという決断。


それを目の前に突きつけられて……口を出せなかった。


それが、何よりも情けなかった。



解毒剤はちゃんと効いているけど、完全回復には程遠い。

それでも、じっとしていられるはずがなかった。

このまま彩葉1人に背負わせるわけにはいかない。



黒瀬悠真とかいう奴が今は敵意はないとはいえ、何をするかなんて予想ができない。



階段を登るたび、心拍数が上がっていく。

呼吸は整っていない。

足もまだ重い。



投げ渡された鍵を握りしめて鉄格子の前に立つと、手が、わずかに震えていた。