そのキス、契約違反です。





黒蛇会がこの大規模オークションを成立させられたのは、裏で俺たち Nocturne(ノクターン)が調整していたからだ。

人も、金も、流れも。

俺がいなきゃ、ここまで綺麗に回るはずがなかった。


手を貸してやったのは、ただの気まぐれ。


おもしろそーだと思ったから。

それ以上でも、それ以下でもない。


男が一歩、距離を詰めてくる。



「お前、ずっとあの女に執着してるよな。首領の仇じゃねぇの?」



俺は、ほんの一瞬だけ思考を止めた。


桜庭彩葉──先代を殺した女。
確かに Nocturne(ノクターン)にとっては、仇。


部下たちは、彼女を憎んでいる。

俺が「手を出すな」と言わなければ、今すぐにでも引き裂きたいだろう。

それでも。



「欲しかっただけだよ。俺が、個人的に」



周囲がざわめく。

苛立ち、困惑、そして嫌悪。


部下の視線も、痛いほど刺さる。



「何故」



理由?

俺は笑いもしなかった。


「理由がないと、欲しちゃいけない?」


その一言に、男の顔が歪む。


「……それで俺達が納得すると思ってんのか?」


そう吐き捨てられても、否定はしない。



「じゃあなに。俺もう手貸さないけどいい?」



数秒の沈黙の後。


その張りつめた空気は、ホールの入口が開く音に切り裂かれた。