そのキス、契約違反です。





【side 悠真】





ボス──水城怜は死に際に言った。



──この世界は力がすべてだ。情も理想も、何の役にも立たねぇ。もし俺に何かあった時は、お前にこの組織を託す。壊されるくらいなら、支配しろ。



……何度も、何度も。

頭の中で反芻されるその言葉は、もはや忠告でも遺言でもなくて。


呪いみたいに、ずっとこの言葉が俺の中にいる。




ホールに戻ると、空気が明らかに変わっていた。


部下と……黒蛇会が睨み合っている。



……ああ、俺が地下の連中を逃したからか。



俺は正面に立つ男を見た。

首元に蛇のタトゥー。黒蛇会の幹部。


その目に浮かぶのは、露骨な苛立ちと軽蔑。



「……お前、ちょっと勝手な真似しすぎじゃねえか」



あー、めんどくさいな。

どうしよっかな。


心のどこかでそんな軽い感情が浮かぶ。

状況とはあまりにも噛み合わないほど、俺は冷めていた。



「“商品”を逃がして捕らえていた連中も解放した。その上──神楽のガキまで、だ」



その名を出された瞬間、ホールのあちこちで視線が動く。

俺は肩をすくめた。



「うん。そうだね」



わざと軽く言うと、空気が一段冷えた。



「……舐めてんのか」

「別に舐めてないよ。てか、俺がお前らに手を貸してやっただけだろ。どうするかは俺の自由。」

「チッ……」