そのキス、契約違反です。





「おいおい、暴れるなって」



……やばい。

本気で、やばい。


反射で膝に力を入れ、思いきり蹴りを入れる。

正面にいた男が怯んだその隙に、私は転がるように起き上がった。



「痛ってぇ……てめー」



人の隙間を縫って、扉へ。



——いける。



そう思ったのに。

扉の外にも、人影があった。


腕を掴まれて、また視界がぐらりと揺れる。



引き戻されて扉が閉まる音がした次の瞬間、ソファに押し倒された。


相手の手が、私のドレスの端にかかる感触。



「嫌っ……、離して!!」



……動けない。


足元まで完全に、押さえつけられている。




やだ。


頭が真っ白になる。


助けて、なんて。

守って、なんて。


思いたくないのに。



こうなってしまったら、もう、私は、ただの女の子と一緒だ。


武器もない、体に力も入らない。


その事実が今になって残酷に突きつけられる。



初めて、はっきりと。



——たすけて。



そう思ってしまった自分が、いちばん苦しかった。