そのキス、契約違反です。




そんな沈黙を破るかのように、また船のどこかで大きな音がした。

悠真の視線が部屋のドアの方へ向く。



「……さっきから外がうるさいな。様子を見てくる」



立ち上がる横顔は相変わらず冷静で、どこか面倒そうですらあった。

そう言い残して、部屋を出ていく。


ガチャ、と鍵のかかる音。


……鍵は内側からは開かない構造。

この部屋は窓もないし、逃げようにも逃げられない。


私はソファに座ったまま、深く息を吐いた。


ちゃんと……解毒剤は効いてるかな。


注射器を受け取った時の蓮の顔が脳裏に浮かぶ。


苦しそうで、それでも私を止めようとして、必死に腕を伸ばしてきた蓮。

私を庇って、何も言わずに薬の入ったグラスを口にした律。


あのときの背中を思い出すたび、胸の奥がきり、と痛む。



「……私、何やってるんだろ」



呟いた声は、静かな部屋に吸い込まれていく。


守るために離れたのに。

離れた結果、こんなことになった。


だったらもう、答えは一つしかない。



──その時。


ドアの向こう。廊下の方から、複数の足音。



一人じゃない。

数人の、荒々しい足音。



私は反射的にソファから離れて部屋の奥へ下がる。

足音は、扉の前で止まった。



………多分、悠真じゃない。


一拍置いて、次の瞬間。

鍵が乱暴に回される音がした。