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地下の牢獄を離れて非常用の通路を抜けた。
無機質な壁に囲まれた細い通路はひんやりと冷えていて、歩くたびに足音がやけに大きく響く。
そのままエレベーターに乗せられて扉が閉まった。
上昇する感覚に軽い浮遊感。
扉が開いた先は、最上階だった。
一番奥の部屋に連れてこられたけど…。
厚い絨毯。柔らかな間接照明。
壁に飾られた抽象画と、重厚なソファ。
……どう見ても、高級客室だった。
黒瀬悠真。
隣に立つこの男は、さっきから表情がほとんど変わらない。
目も、声も、歩き方も——すべてが一定で、感情の起伏というものが見えない。
…何を考えているのか、全くわからない。
「座っていいよ」
促されるままソファに腰を下ろす。
部屋に入る前に、身につけていた銃は回収されたけど…。
これといって拘束されるわけでも、武器を向けられるわけでもない。
……それが、逆に異様だった。
悠真は私から少し距離を取って向かいのソファに座る。
テーブルの上には、まだ誰の手もつけていないグラスが二つ。
「安心して。毒は入ってない」
「……信用できるわけないでしょ」
さっきの今で、差し出された飲み物を疑いもせず口にできるほど、私は鈍感じゃない。
たしかにこの人から殺意や敵意は感じない。
でも、それと“信用できる”かどうかは、全く別だ。

