そのキス、契約違反です。





親父はしばらく俺を見つめてから、静かに言った。



「……良いだろう。この件、蓮に向かわせる」



……!


ざわめく空気に反対の声も上がったが、組長の決定には誰も逆らえなかった。


会議が終わって廊下を歩き、人の気配が遠のいたところで。


親父が俺の横を通り過ぎた。


——すれ違いざま。



「今回だけだ。」



足が止まる。



「本気で欲しいなら。男として、その覚悟を見せろ」



…こんな言葉を親父から向けられたのは初めてだった。

何も言えないまま、背中を見送る。


何も言ってないのに。

………これ、完全にバレてるな。


Aegis(イージス)経由で彩葉に護衛を依頼するツテを持っているぐらいだ、任務のことを知っていてもおかしくはない。


でも、分かっているなら尚更、反対するはずなのに。



廊下を歩きながら、俺は拳を強く握った。


会えるかどうかなんて、わからない。

本当に彩葉がいるのかもわからない。

あの榛名の言葉だって嘘かもしれない。


でも。


会える可能性はあるかもしれない。




——待ってろ、彩葉。



俺はまだ、何も終わらせるつもりはねぇから。