そのキス、契約違反です。





【side彩葉】




「……じゃあ、私…」



続きを言おうとして、喉の奥で言葉が詰まる。


その沈黙を、律がはっきりと断ち切った。



「彩葉は、誰も殺してない」

「……っ」



頭の中で、何度も反響した。


誰も、殺してない。


その言葉を理解するまでに、少し時間がかかった。



あの日からずっと。

人を殺したと思って。

それでも生き残ってしまった自分をどこかで許せないまま、ここまで来た。



だから私は、戦闘の場面でも極力銃を避けてきた。

引き金を引く瞬間になると、身体が勝手に拒絶する。


任務上必要があれば、人を傷つける事はある。

脅しのために銃を構える事もある。



でも、命を奪う任務だけは、どうしてもできなかった。


……私には、向いてないんだと思う。



律がそっと距離を詰めてくる。

その気配を感じても、私は顔を上げられなかった。

喉の奥が、きゅっと縮こまったまま動かない。