そのキス、契約違反です。




部屋の中は静かだった。


カーテンの隙間から差し込む夕方の光が、床に細長い影を落としている。


……泣きすぎたせいで、頭がぼんやりしていた。


あんなに張りつめていたはずの神経が、いとも簡単にほどけてしまって。


ベッドの端に座って、私は膝の上で手を握りしめる。

爪が食い込むほど力を入れているのに、痛みはあまり感じなかった。


「……」


言葉も出てこないまま、時間だけが過ぎていく。

しばらくしてから、また優しく声をかけられた。



「……落ち着いた?」



私は顔を上げられないまま、かすかに頷いた。


「……多分」


声はまだ震えていたけれど、
さっきみたいに何も考えられなくなるほどではなかった。


律は机の引き出しから茶色の分厚い封筒を取り出して、私の前に差し出した。



「これ」


私は視線だけを上げて、封筒を見る。


「……なにこれ…? 」


律の表情が、さっきよりも真剣。

私は少しだけ躊躇ってから、封筒を受け取った。