それから家具などを買ったりした。
家具を運び入れたり、組み立てたりしていたら、外はすっかり暗くなっており、なんとか寝る準備を整えたものの――
「じゃあ、一番乗りした奴がベットで寝れる権利を貰えるって訳で」
黎くんはさも当たり前のように「俺一番風呂ね」と、一番風呂を掻っ攫っていった挙句、私のベットまで取ろうとする。
「何で!?床で寝てよ!いや、寝て!!」
「いやー、ベット貰って悪いねぇ」
満足そうに枕に顔を埋め、あっという間に静かになる。
「俺、黎くんより年上なんだけど……」
草坪くんがぽつりと呟く。
薄暗い部屋で、私は床に敷いた布団の上に座り込む。
「……私の家なんだけど」
どうしよう。ついにこの日が来ちゃった......!
ピカピカの真新しい制服に身を包み、鏡の前でもう一度確認する。
そして、何度目か分からないけど、おかしなところがないか制服をチェックする。
今日は、転校初日。
昨日まで転校手続きとか色々忙しかったから、よく考える時間なかったけど、あの学校に戻るんだよね?
同じクラスになったら、イジメのリーダーにも会うと思うし......そう考えると胸が誰かに掴まれたみたいに痛くなる。
みんなは、私が死んでどう思ったんだろう?
後悔した?それとも、ただ「ふーん」で終わったのかな。
……どちらにしても、私は許せなかった。
制服の上に羽織った黄色のカーディガンを握りしめた。
「さっきからずっと鏡見て百面相してるんだぞ」
「ほら、女は用意が遅いって言うじゃん」
「なるほど!」
そしてコソコソと隠す気のない二人の会話。
二人の服装は制服。......二人も転校生として来るらしい。
黎くんはとにかく、草坪くんは余計なことしか言わなそうで怖い。
深呼吸を五、六回繰り返し、リュックを背負い、玄関のドアを開けた。
黎くんはすでに靴を履き終え、草坪くんは少し離れた場所で伸びをしている。
学校に到着すると、懐かしの担任の先生が立っていた。
相談してねって言うから、「イジメられてます」って相談しても上辺だけの和解をさせられた。もちろん、相談したことがバレてイジメは酷くなった。
「……あ、新しく来る転校生は君達かな?」
低く落ち着いた声で、先生がこちらを見た。
「は、はい……月島……真白です」
名前を言うと、先生は少し目を見開いたが、すぐに何事もなかったかのように取り繕った。
「えっと......君達は?」
先生は黎くんと草坪の方を向いた。
「俺は草坪なんだぞ!真白のお兄ちゃんなんだぞ」
......ん?
「それで、こっちは黎くんなんだぞ。黎くんは俺の弟なんだぞ!」
黎くんはツーンとしながら窓の外を見ていた。
先生に案内されて教室に入り、廊下側に座っていた元親友のの顔を見た瞬間、胸がぎゅっと縮まった。
でもそれを顔に出さないように取り繕いながら、私は先生に促されて口を開いた。
「あ......つ、月島真白です......」
当たり障りのない挨拶をしながら教室を見渡すと、窓際に新しい机が三つ固まっていた。割れた窓は取り替えられており、どこか教室の空気が重かった。
それに続いて黎くんと草坪くんが自己紹介をする。
そんな風にして、私の二度目の学校生活は始まった。
変な時期に仲間入りすることになって、怪しがられるか不安だったけど、意外にもクラスは明るかった。
でも、気になることがひとつ。
一番前の眼鏡を掛けた女の子が、ずっと下を向いている。あの子は確か、私がイジメられていても唯一話しかけてくれた家庭科部所属の夏帆ちゃん。
夏帆ちゃんは、どちらかと言えば大人しい子で、少なくともクラスで友達はいたはずだ。
それなのに、みんな夏帆ちゃんを空気みたいに扱う。
もしかして、ターゲットが夏帆ちゃんになったの......?
「転校生、可愛いじゃん」
「あの三人、兄妹なんだって」
――噂の矛先が、私達に向く。
私は机の端を握りしめ、俯かないようにだけ気をつけた。
「なぁ、月島さんだっけ? 前の学校どこ?」
クラスの中心にいる男子が、わざとらしく明るい声を出す。
その声を聞いた瞬間、心臓が一瞬止まった。
――その声、忘れようとしても忘れられない。
私を“壊した”人の声だった。
他校の不良と戦って勝ったとか、女子高生を妊娠させたとかの噂を持つ男子。
「……隣町の、二中です」
なんとか笑顔を作って答えると、彼はにやりと笑った。
「へぇ〜」
その声を聞いただけで、お腹が痛くなってきた。
「よく見れば可愛くね?俺タイプかもー」
ゲラゲラと笑い声が聞こえる。
怖い。
怖い。
怖い。
「おい、何とか言ったら――」
その時、ガンッと机を蹴る音がした。
音の方を見ると、黎くんだった。
「草ちゃん、真白とあの子を連れてどっか行って」
黎くんは夏帆ちゃんを指差す。今から何するのか分かったのか、草坪くんは私とオドオドする夏帆ちゃんを連れて、廊下に出た。
「あ、あの......」
夏帆ちゃんは不思議そうに草坪くんに声をかける。
「どうして、廊下に出たんですか?」
「そんなの、黎くんが怒っているからなんだぞ」
「え?」
教室の方からはガシャン!という破壊音と、黎くんの「あ?地獄に突き落とすぞ?あんま舐めてかかると、どうなるか分かってんのか!」という低い声だった。
(こっっっっわ!)
「えっ......」
夏帆ちゃんが青ざめた顔で震えている。
「怒った黎くんは怖いんだぞ......」
草坪くんの言葉に、私は無言で頷いた。
家具を運び入れたり、組み立てたりしていたら、外はすっかり暗くなっており、なんとか寝る準備を整えたものの――
「じゃあ、一番乗りした奴がベットで寝れる権利を貰えるって訳で」
黎くんはさも当たり前のように「俺一番風呂ね」と、一番風呂を掻っ攫っていった挙句、私のベットまで取ろうとする。
「何で!?床で寝てよ!いや、寝て!!」
「いやー、ベット貰って悪いねぇ」
満足そうに枕に顔を埋め、あっという間に静かになる。
「俺、黎くんより年上なんだけど……」
草坪くんがぽつりと呟く。
薄暗い部屋で、私は床に敷いた布団の上に座り込む。
「……私の家なんだけど」
どうしよう。ついにこの日が来ちゃった......!
ピカピカの真新しい制服に身を包み、鏡の前でもう一度確認する。
そして、何度目か分からないけど、おかしなところがないか制服をチェックする。
今日は、転校初日。
昨日まで転校手続きとか色々忙しかったから、よく考える時間なかったけど、あの学校に戻るんだよね?
同じクラスになったら、イジメのリーダーにも会うと思うし......そう考えると胸が誰かに掴まれたみたいに痛くなる。
みんなは、私が死んでどう思ったんだろう?
後悔した?それとも、ただ「ふーん」で終わったのかな。
……どちらにしても、私は許せなかった。
制服の上に羽織った黄色のカーディガンを握りしめた。
「さっきからずっと鏡見て百面相してるんだぞ」
「ほら、女は用意が遅いって言うじゃん」
「なるほど!」
そしてコソコソと隠す気のない二人の会話。
二人の服装は制服。......二人も転校生として来るらしい。
黎くんはとにかく、草坪くんは余計なことしか言わなそうで怖い。
深呼吸を五、六回繰り返し、リュックを背負い、玄関のドアを開けた。
黎くんはすでに靴を履き終え、草坪くんは少し離れた場所で伸びをしている。
学校に到着すると、懐かしの担任の先生が立っていた。
相談してねって言うから、「イジメられてます」って相談しても上辺だけの和解をさせられた。もちろん、相談したことがバレてイジメは酷くなった。
「……あ、新しく来る転校生は君達かな?」
低く落ち着いた声で、先生がこちらを見た。
「は、はい……月島……真白です」
名前を言うと、先生は少し目を見開いたが、すぐに何事もなかったかのように取り繕った。
「えっと......君達は?」
先生は黎くんと草坪の方を向いた。
「俺は草坪なんだぞ!真白のお兄ちゃんなんだぞ」
......ん?
「それで、こっちは黎くんなんだぞ。黎くんは俺の弟なんだぞ!」
黎くんはツーンとしながら窓の外を見ていた。
先生に案内されて教室に入り、廊下側に座っていた元親友のの顔を見た瞬間、胸がぎゅっと縮まった。
でもそれを顔に出さないように取り繕いながら、私は先生に促されて口を開いた。
「あ......つ、月島真白です......」
当たり障りのない挨拶をしながら教室を見渡すと、窓際に新しい机が三つ固まっていた。割れた窓は取り替えられており、どこか教室の空気が重かった。
それに続いて黎くんと草坪くんが自己紹介をする。
そんな風にして、私の二度目の学校生活は始まった。
変な時期に仲間入りすることになって、怪しがられるか不安だったけど、意外にもクラスは明るかった。
でも、気になることがひとつ。
一番前の眼鏡を掛けた女の子が、ずっと下を向いている。あの子は確か、私がイジメられていても唯一話しかけてくれた家庭科部所属の夏帆ちゃん。
夏帆ちゃんは、どちらかと言えば大人しい子で、少なくともクラスで友達はいたはずだ。
それなのに、みんな夏帆ちゃんを空気みたいに扱う。
もしかして、ターゲットが夏帆ちゃんになったの......?
「転校生、可愛いじゃん」
「あの三人、兄妹なんだって」
――噂の矛先が、私達に向く。
私は机の端を握りしめ、俯かないようにだけ気をつけた。
「なぁ、月島さんだっけ? 前の学校どこ?」
クラスの中心にいる男子が、わざとらしく明るい声を出す。
その声を聞いた瞬間、心臓が一瞬止まった。
――その声、忘れようとしても忘れられない。
私を“壊した”人の声だった。
他校の不良と戦って勝ったとか、女子高生を妊娠させたとかの噂を持つ男子。
「……隣町の、二中です」
なんとか笑顔を作って答えると、彼はにやりと笑った。
「へぇ〜」
その声を聞いただけで、お腹が痛くなってきた。
「よく見れば可愛くね?俺タイプかもー」
ゲラゲラと笑い声が聞こえる。
怖い。
怖い。
怖い。
「おい、何とか言ったら――」
その時、ガンッと机を蹴る音がした。
音の方を見ると、黎くんだった。
「草ちゃん、真白とあの子を連れてどっか行って」
黎くんは夏帆ちゃんを指差す。今から何するのか分かったのか、草坪くんは私とオドオドする夏帆ちゃんを連れて、廊下に出た。
「あ、あの......」
夏帆ちゃんは不思議そうに草坪くんに声をかける。
「どうして、廊下に出たんですか?」
「そんなの、黎くんが怒っているからなんだぞ」
「え?」
教室の方からはガシャン!という破壊音と、黎くんの「あ?地獄に突き落とすぞ?あんま舐めてかかると、どうなるか分かってんのか!」という低い声だった。
(こっっっっわ!)
「えっ......」
夏帆ちゃんが青ざめた顔で震えている。
「怒った黎くんは怖いんだぞ......」
草坪くんの言葉に、私は無言で頷いた。



