「……わたしの亡き骸は、ほ、星の輝く夜に灰にしてください……月とともに皆さんを見守っていますから。いつまでも、いつまでも……」

 俯いて膝に手を突っ張り、フードの奥からぽたぽたと雫を落とすわたしに、シリウスさまは首を傾げているようだった。

 「……なにを言っているのかよく分からぬが、まずは礼を言う。忙しいのに時間をとらせてすまない。単刀直入に尋ねるが……」

 ぴくりと肩が揺れる。覚悟を決め、ふうと息を吐きながら言葉を待つ。

 「……ウィステル伯爵令嬢、フィオナ殿のことだ。彼女について知っていることを教えて欲しい」

 え。
 思わぬ言葉に顔を上げる。

 「……ふぃ、フィオナさま、ですか……」
 「そうだ。実は昨日、学院内で……ちょっとした騒ぎがあってな。第二王子、ライエル殿下も巻き込まれたのだが、そこにフィオナ殿がおられたのだ」
 「……え、その、フィオナさまが、なにか……」

 そういうと、シリウスさまは慌てたように手を振った。

 「いや、違う。そういうわけじゃない。騒ぎは収まったし、彼女にはなんの責もない。そうではなく、その……」

 そこまで言って、黙ってしまった。なぜか横を向いて鼻の頭を掻いている。薄暗がりでも頬がわずかに色づいていることがわかった。
 わたしも黙ってその様子を眺めていたが、ふいに天啓が降りた。
 え。嘘。もしかして……シリウスさま、フィオナさまのこと……。
 生命の危機に震えていた身体が、別の理由で震えだす。同じく潤んでいた目に温度の異なる雫が浮かぶ。
 すごい。すごいよフィオナさま、両想いだよ。よかった、よかったね。

 と、感極まっているわたしに、シリウスさまはぽつりと呟いたのだ。

 「……フィオナ殿を、ライエル殿下の妻としたい」