「……どなた?」
先頭の女が怪訝な目を向けてくる。その他六名も同様だ。
フィオナさまは戸惑ったように、女たちとわたしとを見比べている。わたしだとは気づかれていないようだ。珍奇な服装と化粧で誤魔化せたらしい。よかった。
最後には砕け散るさだめの当て馬令嬢。それはいい。でも、大書庫での日々を、わたしとの想い出を壊すのだけは嫌だったのだ。
わたしは眉を少しだけあげ、言葉を出さずに足を踏み出した。複雑に重ねられた白の裾が揺れる。女の二歩ほど前に立つ。目尻を細め、そのまま動かず、相手を見つめる。
「……なに。わたくしたちに、なにかご用かしら」
それでもなにも言わないわたしに気圧されたらしい。ぐ、と、息が詰まったような表情を相手は浮かべて、わずかに足を退いた。
どっこい。
ほんとに詰まってるのは、わたしだ。
動かないのではない。動かせないのだ。声も出ない。
女たちの前にぐいぐいと出ることはあらかじめ決めていた。だから足も出た。あとは決めていた台詞で啖呵を切って、殿下に視線を向けてもらえばいい。計算はできていたし、練習もした。
でも、いざ至近距離に立ってみると……。
怖。やばい怖。
逃げたい。野獣。肉食獣。なにこんなのに詰め寄られてたのフィオナさま。よく生きてたね。わたしは死にそうです。呼吸ができない。なんの台詞も出てこない。外観だけじゃなくて頭のなかまで真っ白。
「……ちょっと。黙ってないで、なにか仰いなさいよ」
女は痺れを切らしたように一歩を踏み出した。圧がすごい。あ、やばい。意識、飛ぶ。思わず崩れ落ちそうになり、足をとんと出してなんとか堪える。
と、前に出た女と胸のあたりでぶつかりそうになる。慌てて手をあげたが、左の手が相手の腰のあたりに回るかっこうになった。まずい、と咄嗟に振った右の手は女の後頭部。わたしの口元を、相手の右の頬に沿わせるような形で静止した。
つまり、わたしは相手を抱き止めているのだ。
「な……っ!」
女が小さく叫ぶ。



