領地で大災害があってまた独りぼっちになった時。
あるいは別の要因でクロウたちと一緒にいられなくなった時。
想像しただけで、子供になって緩くなった涙腺から涙がこぼれそうになるが、それらは決してないとは言い切れない未来だ。
そんな未来において、アウルがまた誰かに拾ってもらえるように功績を残そうとしてくれている。
アウル名義で、送風機の公表をすることによって。
「もちろん無理にとは言わない。この技術を生み出したのはアウルだ。だからアウルが気乗りしないのであれば、どこにもこれを公表せず頭に仕舞っておくという選択もありだろう。屋敷にいる者が技術を盗んで代わりに発表するということも俺がさせない。だが、少しでもその気があるのなら……」
正式に公表してみないかと、今一度クロウは問いかけてくる。
アウルはそれを受けて、クロウの目を見つめ返しながら静かに考えた。
送風機の公表によって得られるメリットは確かに多い。
けど正直そこまで大それたことをしたつもりもないし、なにより屋敷の人たちの協力がなければ実現ができなかったことでもある。
それで自分ばかりが得をしてしまってもいいのだろうか?
発明品の公表で得られる褒美なんてそれこそ想像もできないほどの大金になるだろうし。
そこでアウルは、気持ちに折り合いをつけるためにこんな折衷案を提示した。
「もらったごほうび、りょうちのためにつかっても、いいでしゅか?」
「領地のため? このマグノリア領のためにということか?」
こくりと頷き返す。
大金をもらったところで使い道は思い浮かばないし、上手く使える気もまったくしない。
であれば領地の運営や開拓に四苦八苦しているクロウに有効活用してもらった方がいいと考えた。
「まもののひがい、いっぱいあるってきいた。みんながへいわにくらせるように、ごほうびちゅかいたい」
「領地のために、その資金を提供してくれるというのか? 確かにそうしてくれたら大助かりだが……」
数年前に起きた大規模な魔物災害により、マグノリア領は半壊と呼べるほどの大打撃を受けた。
今もなおその傷跡が各地に残されており、完全なる復旧には人手と資材が足りない状況となっている。
加えて続く魔物被害から町や村を守るため、堀や監視塔といった防衛設備を新たに設置できればとクロウがぼやいているのを聞いたこともある。
それらを実現させるために、技術公表によって得た資金を提供したいと思ったわけだ。
しかしその提案を受けたクロウは難しい顔をして黙り込んでしまう。
それはアウルの発明が産業技術を何十年も先に進ませるもので、国側から多額の報酬が送られるのは自明の理だからだ。
まさにその額は恐ろしいものになると思われる。
そんなものを軽々しくもらって、自分の領地のために簡単に使ってしまっていいのかと、クロウは思い悩んでいる様子だった。
「それがだめなら、はっぴょうしない。ぼくがごほうびもってても、ぜんぜんいみないから」
「アウル……」
頑なな姿を見せると、クロウはしばらく考え込んだ後、頷きを見せてくれた。
「……わかった。アウルが送風機の発表で得た報酬や援助資金は、すべてマグノリア領の復旧および開拓のために使うと約束しよう」
「はい! じゃあはっぴょうしましゅ!」
資金を得た際の使い道が決まったので、アウルは元気よく手を挙げて返事をした。
これで気兼ねなく送風機のことを大々的に公表することができる。
するとクロウが、唐突に真剣な顔になって真っ直ぐな眼差しを向けてくると、改まった様子で告げてきた。
「改めて、マグノリア領の領主として、貴重な資金の提供に心から感謝する。必ず役立ててこのマグノリア領をさらに繁栄させるとここに誓う」
「はい、がんばってくだしゃい!」
思いがけず送風機のことを王国側に公表することになり、またひとつクロウの役に立てたことをアウルは心から喜んだのだった。

