調理器具が不足しているというのもあるが、卵や生クリームを空気を含ませるように混ぜることで、ふわふわの食感や軽い口当たりになるという知識をこの世界の人々は持っていない。
だから卵や生クリームはそのままの状態で料理に使われることがほとんどで、メレンゲやスフレ、スポンジケーキといったものがないのもそれが理由だ。
そして〝氷〟が貴重という点もホイップクリームが生まれなかった要因のひとつと考えられる。
おそらく生クリームを混ぜた料理人は、歴史上にこれまで何人かはいたはず。
しかし生クリームは冷やしながら混ぜなければ、含まれる空気の量が少なくなりホイップクリームとは呼べない弱々しい代物にしかならない。
氷が貴重で下手に調理に使うことができなかったので、生クリームを冷やしながら混ぜた料理人がいなかったのだと思われる。
だがここに、氷を自在に生み出すことができる契約精霊のフェンリルがいる。
そして泡立てるという知識を持ったアウルもいる。
だからこの世界に、まだ存在していないホイップクリームを誕生させることができるはずだ。
「あっ、そろそろ休憩のお時間ですね。本日もまたクロウ様の執務室で本をお読みになるんですか?」
「ううん、きょうはちがうことしゅる。だからロビン、きゅうけいのときちょっとだけてちゅだって」
「手伝う? いったいなにをお手伝いすればよろしいのですか?」
「あとフェンリルしゃんも、おきててちゅだって」
大好きなホイップクリーム製作開始である。

