「……俺もか? いや、俺はいい。試食をしてすでに味を知っているからな」
「えっ? でも、いっしょにたべたいなって……」
美味しさの共有をしたかったのはもちろんだが、単純に美味しいものを一緒に食べたかったというアウルの気持ちが、落ち込んだ表情から伝わってくる。
行き場を失ったアップルパイを摘まんだまま、アウルがつぶらな瞳で見つめ続けてきたため、クロウは内心でため息を吐いた。
次いでアウルの前でわずかに屈むと、指で摘ままれたアップルパイをはむっと口で受け取って食べる。
「おいちい?」
アウルがきらきらとした瞳でそう問いかけてきて、クロウは頬に少しの熱を感じながら目を逸らした。
「……おいしいな」
「いっしょにたべるとおいちいねー!」
するとアウルは嬉しそうに微笑んで、クロウの中で温かい気持ちが一層大きくなるのを感じた。
それからアウルとフェンリルがふたりしてクロウ手製のアップルパイを食べ進めていると、やがてアウルがなにかを思いついたようにハッとする。
「これ、みんなにもたべてもらいたいでしゅ! すっごくおいちいから……」
「さっきも言ったが、それはアウルにやったものだ。そうしたければ自由にしろ。少々作らせすぎて量もあるしな」
「じゃあ、ばんごはんのデザートにしてもらうー!」
そのことを伝えるためか、アウルは私室を飛び出して「ロビンー!」と侍女の名前を廊下に響かせた。
後を追いかけていくフェンリルの背中を見届けてから、クロウは今一度手作りのアップルパイに視線を落とす。
ちゃんと自作のアップルパイが褒美になって本当によかった。
それと同時に言いようのない温かい気持ちに満たされて、我知らずクロウは固く結ばれていた頬を少しだけ緩めたのだった。

