「ク、クロウおにいしゃま?」
「突然やってきてすまないな」
部屋の中央ではカーペットの上に、この前領民たちからプレゼントされただろう本の山があった。
その近くでは体を丸めて眠る契約精霊のフェンリルがいて、傍らには一冊の本が開かれた状態で置かれている。
どうやらアウルは、眠っているフェンリルの近くで静かに読書をしていたらしい。
そして幸いなことに他に侍女や使用人の姿はなかった。
これを渡すところをあまり人に見られたくはなかったので都合がいい。
不思議そうな顔でこちらを見上げてくるアウルに、クロウは下げていた包みを渡す。
「アウルにこれを渡したくてな」
「なんでしゅかこれ? なんかいい匂い~」
布の包みの上からすでに甘い香りを感じ取ったらしく、アウルはすんすんと小さな鼻を動かしていた。
そして受け取った包みをテーブルに置くと、丁寧に布を広げていく。
やがてあらわになったアップルパイを目にし、アウルの瞳に確かに星のようなきらめきが灯るのが見えた。
「ア、アップルパイだー!」
「その、なんだ……氷室の件で褒美は要らないと言っていたが、アウルとフェンリルの力にはとても助けられたからな。形だけでも褒美を用意したんだ」
クロウは気恥ずかしさからか、心なしか頬に微かな熱を感じる。
同時にアウルの喜ぶ姿を見られて、もっとアウルを喜ばせたい、この笑顔を守りたいという気持ちになった。
誰かに対してこんな風に思ったことは一度もない。
初めてのその感覚に酔いしれてぼんやりとアウルを見据えていると、不意な問いかけに意識が引き戻される。
「まだあちゅあちゅだー! おみせでかってきたんでしゅか?」
「いいや、パティシエを呼んで作らせたのだ。冷めたものでは褒美にならないと思ったからな」
当初の予定通り、自分で作ったことは内緒にしておく。
するとアウルは素直にそれを信じたようで、「ぱてぃしえー!」と驚きながらアップルパイに視線を戻した。
次いでごくりと喉を鳴らして、上目遣いに聞いてくる。
「た、たべてみてもいいでしゅか?」

