ほどなくして屋敷の門前へと辿り着き、焼き立てのアップルパイを入れた包みを下げながら、なにげない顔で門を潜る。
「おかえりなさいませ、クロウ様」
「あぁ」
帰宅に気付いた庭先の使用人たちが出迎えにやってきて、少し手に汗を握ってしまう。
それでも平常心を貫いて軽く反応を返すと、クロウは足早に庭を横切ろうとした。
が、その時……
「んっ? なにやらよい香りが……?」
「確かに、甘くて香ばしいお菓子のような……」
「クロウ様がお持ちのものでしょうか?」
不意に使用人たちのそんな会話が聞こえてきて、思わずヒヤッとしてしまう。
ただそれ以上に言及してくることはなく、クロウはなんとか庭先をやり過ごすことができたのだった。
直接触れられたら店で買ってきたとしらばっくれるつもりではあったが、いざ指摘されると肝が冷えるものである。
しかし逆によい香りと言ってもらえたことで、少しの自信にもなった。
艱(かん)難(なん)辛(しん)苦(く)を乗り越えて屋敷の中へと立ち入ると、クロウはさっそくアウルの私室へと向かう。
いつもはアウルが執務室に本を読みにくるが、今回はそれとは逆でクロウが部屋の扉をノックする番だった。
コンコンコンッ。
「はーい」
返事が聞こえるや、クロウはすぐに扉を開ける。
するとクロウの方からやってくるとは思っていなかったのか、アウルは驚いたようにくりっと大きな碧眼を見開いた。

