「アップル……パイ?」
アップルパイ。
リンゴを砂糖で煮詰めたものをパイ生地に包んで焼き上げた菓子。
予想だにしていなかった情報を開示されて、思わずアップルパイがどんな品であるかを詳しく振り返ってしまう。
クロウの前では食べたいと言ったことは一度もないが、ストークには聞き覚えがあるようだった。
「初めて屋敷に来られた際、夕餉のデザートで焼きリンゴが出たのですが、それをいたく気に入ったみたいで。別のリンゴスイーツを食べたいと侍女のロビンと話しているのを耳にしたことがあります」
「それでアップルパイか」
「はい。記憶している限りですが、あれからまだアップルパイは夕餉の献立で出ていないかと」
だから褒美にするならアップルパイがちょうどいいのではないかと思って、ストークは提案してくれたらしい。
それを受けて、クロウは顎に手を当てて考え込む仕草をする。
余計に悩ませてしまったと思ったストークは、すかさずクロウに頭を下げた。
「申し訳ございません、あまり参考にならずに」
「いや、充分だ。話してくれて感謝する。引き留めて悪かったな」
「いえ、お役に立てたのならなによりです」
そう言って今度こそストークは執務室から立ち去って行った。
ひとりになったクロウは、ストークの提案を頭で反(はん)芻(すう)させる。
「アップルパイ……アップルパイか……」

