「えっ、アウル様ですか? いえ、私の記憶の限りでは、特になにかをせがんだりしたことは一度もありません。我(わが)儘(まま)もなにも仰らない純真なお子様ですよ」
そうだろうな、とクロウは心の中で呟いた。
アウルが子供らしくなにかを欲しがったりねだったりしたことがないのは、とっくにわかっている。
それでも自分のあずかり知らないところで、我儘のひとつでも言ったことがないだろうかと期待半分でストークに問いかけてみたのだ。
だが残念ながら収穫はなし。
対して質問を受けたストークは、その内容とクロウの表情からなにについて悩んでいるのかすぐに察した。
「もしや氷の件で、アウル様になにか褒美を用意できればとお考えですか?」
「当然だろう。あれだけの量の氷を作り、十を超える町や村をたった数日で救ったのだぞ。本人がけろりとしているせいで気付きづらいが、マグノリア領の歴史に名を残すほどの偉業を成し遂げたと言っても過言ではない」
「それは確かに……」
夏を間近に控えたこの時期。
貴重な氷を失って絶望的な状況に置かれていた領内の町や村。
そこに突如として現れた子供と精霊が、本来この時期に手に入るはずのない氷を生成してすべての町村に行き届けた。
直接的に誰かの命を救ったわけではないが、領民たちにとって過酷な夏の生活を救ったのだ。
怪我や熱の治療のために氷を使う機会もあるだろうし、間接的に誰かの命を救ったとも言えるかもしれない。
氷を生み出す魔法や技術がない中でそれを成し遂げたとなると、クロウの言う通り偉業のひとつと数えることができるだろう。
なにか褒美が与えられて然るべき出来事だ。
「しかしアウル様ご本人が今は欲しいものは特にないと仰っていましたので、無理にお渡しになる必要はないのでは?」
「俺もそう思ったが、さすがにこれだけの大業を果たしてもらい、見返りをなにも渡さなければ俺個人の気が晴れない」
「……とは言え、ご本人がなにも欲しがっていませんので、なにか欲しいものが思いついた時にお渡しするというのでいいのではないでしょうか? それにしてもアウル様は、あの歳にして本当に欲しているものはなにもないのですかね?」
ストークは改めてアウルの歳不相応な様子に疑念を抱く。
普通の五歳くらいの子ならば、あれが欲しいこれが欲しいと親にせっつく姿が共通のはず。
それは平民の子だろうと貴族の子だろうと変わらない。
しかしアウルはなにか物をねだったり我儘を言ったことがただの一度もないのだ。
遠慮なんてわからないくらいの年齢のはずなのに。
あまりにも歳不相応な子で、ストークは初めてアウルに会った時からそれを感じていた。
「思えば不思議な子ですよね。最初にクロウ様がお助けになった際も、やや怯えた様子はあったものの文句もなしについてきたり、文字の読み書きや計算の勉強も素直に受けていますし。あの歳の子にとって勉強は苦でしかないはずなのに、一度も嫌と言ったことがないのは少し不自然です」

