立っていた、という表現が正しいのかわからない、溶岩みたいな見た目の魔物。
大きさは中型トラックと同じくらいだろうか。溶岩を集めてこねたような姿をしていてドロドロうねうねとうごめいている。
(名付けるなら溶岩スライムだな)
その魔物はこちらの存在に気が付いたのか、半液状の体をプルプルと震わせて鳴き声をあげた。
「ジュルルルゥ!」
「異質な魔力の流れを感じる。地中に魔力を流して、領内全域の地下に熱を広げているようだな」
この地下洞窟からなら、地中を通して広範囲の地下に影響を広げることもできるはず。
氷室の高温化の原因は明らかにこいつと見て間違いなかった。
(てか見てるだけで暑い! いや熱い!)
それなりに魔物との距離があるはずなのに、溶岩のような体から放たれる熱が顔に当たり、サウナに入っている気分だった。
とてつもない迫力と威圧感も伝わってくる。
生身で触れるのは論外。武器で攻撃してもすぐに溶かされてしまうだろう。
「危険度で言えば王国軍の師団対応クラスだな。これほどの魔物が忽(こつ)然(ぜん)と現れるなど、やはりとんでもない領地を任されたものだ」
「ど、どうしゅるんでしゅか?」
「どうするもなにも、こうするだけだ」
これだけ厄介そうな魔物なら、さしものクロウも頭を抱えることだろうと思っていると……
彼はアウルを左腕で抱えたまま、右腕を前に出して手の平を魔物に向けた。
「【反逆への処罰(パニッシュ・メント)】」
刹那、魔物の体がズンッ!と地面に深くめり込んだ。
不可視の力によって真上から押さえつけられているよう。
あまりの力の強さに、半液状の体はほぼ平らになっており、魔物の周りの空間はもはや歪んで見えた。
先ほど言っていた闇属性魔法の力。
これほどまでに圧倒的な力なんて。
そう驚いたのも束の間、半液状の魔物は鳴き声をあげる暇もなく、プチッ!と押し潰されてしまった。
溶岩に似た体液がドロドロと溶けて、地面に吸われるように消えていく。
「よし。あとは各地の氷室の異常が解消されたか確かめるだけだな」
「……」
ここに到着して、ものの一分ほどで戦いは終わってしまった。
王国軍の師団対応クラスと評された魔物が、ほとんど一瞬で……
魔物が弱すぎるように映ったが、明らかにこれはクロウが強すぎたのだ。
「クロウおにいしゃま、つよーい!」
「この程度、大したものではない。それにいずれは契約精霊を多く従えたアウルに追い抜かされるだろうからな」
とてもそんな気はしなくて苦笑が漏れてしまう。
このとんでもない人類より強くなる?
遠く離れたこの場所に三十分ほどで高速移動でやってきて、師団対応クラスとかいう超危険な魔物を一瞬で葬ったこの人に?
なんてスケールのでかい期待をされてしまっているんだと半分涙目になったけれど、クロウが向けてきた信頼の眼差しを受けて、不思議と少し自信が湧いてきた。
「アウルにはこれ以上に強くなってもらう。ということを伝えるためにこの場所に連れてきたんだ。今の戦いのことを、よく覚えておけ」
「はい!」
クロウは踵(きびす)を返すと、アウルを抱えたまま地下洞窟を飛び出し、再び風になって森を駆け抜けていったのだった。

