そんな彼の珍しい姿を見ていたアウルは、自分でもなにかできることがないかと頭を回した。
その時、ちょうど目を覚まして「くわぁ」と欠伸をしているフェンリルが横目に入り、ふとあることを思い出す。
ついこの前読んだばかりの、精霊記の話を。
「ねえねえ、フェンリルしゃん」
「クゥン?」
「フェンリルしゃんなら、こおり〝つくれる〟?」
「ガウガウ!」
アウルの言葉を理解しているように、フェンリルは肯定的な鳴き声を返す。
それを聞いていたクロウが、ガタッと椅子を揺らしながら立ち上がった。
「こ、氷を作れるのか、契約精霊のフェンリルが?」
「フェンリルしゃん、えほんのなかでこおりの力つかってた」
フェンリルは雪山に住んでいて、氷や冷気の力を使って戦う姿が絵本の中で描かれていた。
氷狼フェンリルという別名もあるくらい、氷とフェンリルには深い繋がりがある。
だから契約精霊として顕現したフェンリルも、氷を作れるのではないかと思ったわけだ。
「魔法に氷の属性はない。が、魔物やその上位存在である精霊はその限りではないということか」
「ぼくとフェンリルしゃんで、こおりいっぱいつくる! それでりょうちのみんなたしゅける」
「そうしてもらえたら確かに助かるが、契約精霊の力を発揮させるには宿主の魔力が必要になるのだぞ。氷室に異常が発生した町村は軽く十を超える。どれだけの魔力を与えなければならないのかも詳しくはわからない。それでもやるというのか」
クロウの懸念も理解できる。
契約精霊を従えている人物はこの世界でまったく見かけない。
その力を発揮させるのにどれほどの魔力を与えればいいのかは未知数だ。
下手をしたら今度こそ魔力枯渇による症状に襲われる可能性もある。
しかしアウルは自分の常識外れの魔力量に自信を持っており、氷を大量に作って領内全域の氷室をパンパンにしても余りあるのではないかと考えた。
魔力操作の方も上達してきているので、魔道具製作ほど複雑ではない魔力の供給ぐらいだったら今の自分でもできるはずだとも。
なによりあの恩人のクロウに、ようやくひとつその恩を返すことができるチャンスである。
ゆえにクロウの問いかけに、躊躇(ためら)うことなく頷きを返した。
「やりましゅ! やりゃせてくだしゃい!」
「……わかった。領内の町村全域に即時氷を届けられるよう手配を進めておく。力を貸してくれ、アウル、フェンリル」
「はい!」
「ガウガウ!」
無茶をしないようにという条件付きで、今回の事件の解決に力を貸すことになったのだった。
精霊使いアウル、がんばります!

