確かに難題に直面しているようである。
この領地は魔物の被害だけではなく自然環境から見ても開拓が難しい土地になっている。
脆(もろ)い土壌や粗悪な水質、気まぐれな気候や地殻変動による地震や噴火の多発。
それらのトラブルが絶え間なく続いており、今回の氷室の騒動もその一環だと思われる。
(魔物だけじゃなくて自然環境にも牙を剥かれるなんて、本当にこのマグノリア領はとんでもない領地だな)
経営を一任されたクロウに改めて同情してしまう。
ともあれかなりの緊急事態であることはわかった。
このままでは村人たちが食材の保存ができなかったり、発熱や怪我の時に冷やす氷がなく死活問題となる。
前の世界でも冷蔵庫は必需品。壊れたら大問題だった。
しかも夏を前にしてのことなので、尚更最悪である。
(てか思い出した。俺も前の世界でまさに夏を前に、冷蔵庫が故障したことがあったな)
会社から自宅に帰ってきたら、いつもの冷蔵庫特有の稼働音が部屋に響いておらず不気味なほどに静かだった。
そして恐る恐る冷蔵庫を開けてみたら、不快な異臭が鼻を貫き、温(ぬる)くなった食材たちと目が合ってしまった。
冷凍庫の方なんてさらに見られたものではなく、氷は製氷スペースの中でびちゃびちゃ、冷凍食品や保存していた肉は全部ふにゃふにゃになっていて、とてもじゃないが食べられる状態ではなかった。
仕事で疲れている上にこの仕打ちだったから、尚のことこたえたものである。
常日頃から不幸な目に遭い続けていた人生だったけれど、あれは不幸エピソードの中でも衝撃的で今でも脳裏に焼きついている。
だから事の重大さをアウルもすぐに理解し、同時にクロウが問題解決に悩んでいる理由も察した。
「いまからこおりをあちゅめるの、むずかちい?」
「あぁ、時期が時期だからな。この暖かい季節で氷が発生している場所など遠方の北国くらいだ。そこから仕入れようにも距離があって確実に道中で溶けてしまう」
氷室の原因不明の高温化を解決するのも難しそうだが、なにより今から新たに氷を調達するのが難関すぎるのだ。
領地内の他の村や町から少しずつ分けてもらっても絶対に数が足りないだろうし、領地外から氷を仕入れようにもこの暑さなのですぐに溶けてしまう。
魔法でどうにかできないものかとも思うが、氷は魔法が一般化されたこの世界でもかなり貴重なものだ。
魔法に氷の属性がなかったり、氷を作れるほど複雑な魔道具が作れなかったり。
だから冬季に自然的に発生した氷を確保して氷室に保管しておくしかない、というのがこの世界の常識である。
「最悪肉や魚の保存は諦めてもらい、すべて干すか加工で妥協してもらうしかないか。しかし怪我や熱の時のための氷ばかりはそうもいかないしな……」
クロウは誰に言うでもなく解決策をこぼすが、すぐに行き詰まり頭をかき始める。

