転生して捨てられたボク、最恐お義兄さまに拾われる~無能と虐げられたけど辺境で才能開花⁉~


 しかもとても難しい顔をしながら。
 厄介なこの地の開拓を任されて頭を抱えている姿は何度か見たことがある。
 しかしすぐに解決方法を提示してそれらの問題を手早く解消していた。
 それが今回はいつもの無表情を崩して、ずっと悩ましい顔で書類に目を落としており、あまりにも珍しいその姿にアウルは思わず問いかける。

「……どうかしたんでしゅか?」

「んっ? いや、アウルが気にすることではない。気を散らしてしまったようですまないな」

 クロウはなにも教えてくれず、またすぐに卓上の書類に視線を戻してしまう。
 子供だから難しい話を聞かせても仕方ないと思ったのか、無駄な心配をさせたくないと思ったのか。
 どちらにしてもやはりあのクロウを苦悩させている事由がなんなのか気になってしまい、アウルはチラチラと手元の本とクロウの顔で視線を行き来させた。
 それに気付いたクロウが、やがて諦めたようにため息を吐く。

「領内の村や町の至る所で、氷室に異常が発生してしまってな。保存していた氷やら食料が軒並みダメになってしまったのだ」

「ひむろ?」

 ようやく話してくれた内容は、辛うじてアウルでもわかる程度の問題だった。

(氷室って確か、涼しい地下室を利用した天然の冷蔵庫だよな?)

 この世界には、冷蔵庫や冷凍庫といった保存設備が存在しない。
 それに代わる魔道具も今のところは発明できておらず、住民たちは昔ながらの氷室を活用して生活を送っている。
 冬場に自然界でできた氷を採取し、涼しい地下室に置いておく。
 すると気温の高い季節になっても、氷自体で地下室の温度が下がっているため、傷みやすい食材や氷そのものを長期保存することができるそうだ。
 ちなみにこの屋敷の地下にも氷室はあり、前に一度だけ入らせてもらったことがある。

(原始的ながらものすごく寒くて、まさに天然の冷凍庫みたいだったんだよなぁ。人がいるだけ温度が上がるからってすぐに出されちゃったけど)

 氷室内の氷が溶けてしまったら夏における食材保存の術がなくなるので、非常に繊細に扱っていた印象がある。
 その氷室に異常が発生した? 領内の至る所で?

「原因は不明だが、地下の温度が急激に上昇し、氷室としての機能を保てなくなってしまったらしい」

「それで、こおりがとけちゃったんでしゅか?」

「あぁ。夏を越えるための氷がなくなって、急ぎ氷の供給をしなければいけなくなったのだが……」

 その解決方法が思いつかず、クロウはため息を吐いていたというわけだった。