「そして精霊記は、常人では一ページも読み進められない絵本だと言われている」
「えっ、どちて?」
「中に封じ込められている精霊が、読み手の魔力をふんだんに食らうと言われているんだ。そのため一ページでも読んだ者は急激な魔力低下により、昏(こん)倒(とう)したりショック症状を起こしたり、最悪その命を落とすこともある。ゆえに『悪魔の書物』と呼ぶ者もいるほどだ」
「……」
そんな危険なものだったのかと、アウルは冷や汗を流しながら喉を鳴らす。
けど、この絵本を読んでいる最中は特になにも感じなかった。
魔力を食われていたという感覚はまったくなかったし、体も別に疲れてはいない。
(まあ、ウトウトと眠くなってはいたけど……)
まさかあれが魔力を食われていた感覚?
昏倒したりショック症状を引き起こしたりする人がいる中で、自分は眠くなっただけということだろうか?
本当に自分が読んでいた絵本が、その精霊記なるものなのかどうか怪訝に思っていると、クロウが確たる根拠をアウルに話した。
「そんな精霊記だが、最後まで読み通すことができた者には、封じ込められていた精霊が懐いて『契約精霊』として宿ると言われている」
「しぇいれいが、やどる?」
「突如として現れたこの狼は、絵本の中から飛び出してアウルに宿った契約精霊ということだ」
アウルは今一度白狼を見る。
狼はアウルと目が合ったのが嬉しかったのか、ぶんぶんと尻尾を振ってかわいらしい姿を見せてきた。
これが魔物の上位存在である精霊にはとてもじゃないが見えない。
けど話を聞くに、確かに状況から見てこの狼は精霊記から飛び出してきた精霊の可能性が非常に高いと思った。
「精霊がいなくなった精霊記は、役割を終えてただの白紙の本に戻ると聞いたこともある。これだけ証拠が揃っていればまず間違いないだろう」
アウルは眼前にいる白狼と目を合わせながら、改めて尋ねる。
「きみ、ぼくのけいやくしぇいれい?」
「ガウガウ!」
肯定的と思われる元気な返事を受けて、アウルはパッと笑顔を咲かせた。

