咄嗟にアウルもクロウの開いている本を覗き込む。
すると彼の言った通り、本にはなにも書かれておらず全ページが〝白紙〟になっていた。
「アウル、貴様の読んでいた本は最初から白紙だったか?」
「ち、ちがいましゅ。えともじ、ちゃんとかいてありまちた」
この五日間、ただの白紙の本を読みに執務室に来ていたわけではない。
読んでいた本の中には、確かに絵と文字が描かれていてストーリーが作り上げられていた。
しかし目の前にあるのは、誰にも踏み荒らされていない新雪みたいに真っ白な本である。
なにがなんだがわからずに放心していると、クロウが白紙の本と白狼を交互に見て、確信を得たように断言した。
「読み終えて中身がなくなった本。そして読み手に非常に懐いている魔物に近しい獣。おそらくアウルが読んでいたこれは、『精(せい)霊(れい)記(き)』だな」
「しぇいれいき?」
初めて耳にする単語である。
アウルが首を傾げたのを見たクロウは、絵本だったものを指の背でトントンと叩きながら説明してくれた。
「精霊記は精霊の伝承が綴(つづ)られた希少な絵本だ。アウルが読んでいたこれには、精霊の伝説や活躍が描かれていただろう?」
「はい、しぇいれいのおおかみしゃんのえほんでちた」
「アウルの見た通り、精霊記は一見するとただの絵本ではある。だが実際には〝本物の精霊〟が封じ込められている、魔道具に近いものだ」
「えっ!?」
本物の精霊。
精霊とは魔物以上の力と知性を持ち合わせた魔物の上位存在で、かつては人々とも争いを繰り広げ、今ではその姿をぱったりと見なくなった幻の存在だという。
そんな精霊が実際に封じ込められている絵本があったなんて。

