「えっ、いいん……でしゅか?」
「静かに本を読む分なら仕事に支障は出ないからな。ただし騒がしくしたらすぐに追い出す」
まさかここでの読書も許してもらえるとは思わなかった。
確かに持ち出した本をまた戻しにくるのも面倒だし、いちいち侍女のロビンとかに運んでもらうのも申し訳がない。
ここで読むのが一番効率的だと思った。
アウルはお言葉に甘えてペタンとその場に座り込み、絵本を床で開いて見下ろすように読み進めていく。
中身は子供でもわかりやすいストーリーだった。
タイトルは【ゆきやまのフェンリル】。
黒い狼の群れに唯一生まれた白い狼が主人公のお話。
ただひとり白い毛色で生まれた白狼は、群れの中で迫害されることになった。
それでも強く生きていき、黒狼たちとどう付き合っていくかを考える、そんな流れの内容となっていた。
そこまで劇的な話でもないが、他の難しい本よりはまだ楽しめて、文章を読む練習にもなるためアウルはのんびりと絵本のページをめくっていく。
執務室にはしばらく、クロウがペンを走らせる音と、アウルが絵本をめくる音だけが静かに鳴っていた。
やがて読書中特有の眠気がやってきて、カクンカクンと小舟を漕ぎかけたところで、休憩時間が間もなく終わることに気が付く。
部屋にいないとロビンが心配すると思ったので、急いで部屋に戻ることにした。
クロウはそれを察したのか、仕事の手を止めて歩み寄ってくると、やり場に困っていた本をなにも言わずに元の場所に戻してくれる。
そのままドアまで開けてくれて、アウルはぺこりとお辞儀をしながら部屋を出た。
扉の前で一度立ち止まり、クロウの方をくるりと振り返って尋ねる。
「また、きてもいいでしゅか?」
「好きにしろ」
そう言ってもらえて、アウルは満面の笑みを浮かべて「はい!」と返した。
その日から、アウルは勉強の休憩時間になると、決まってクロウの執務室に足を運ぶようになった。
クロウもアウルのことを邪険にせず、毎回手厚く扉を開けたり本を取ってくれたりする。
特にふたりでなにかを話すというわけではなかったが、アウルは不思議と執務室に居心地のよさを感じていた。
紙とインクとコーヒーの香りに包まれ、ペンを走らせる音と絵本をめくる音だけが鳴る部屋。
前世からこういう静かな空間が大好きで、そんな場所で読書をするのが特に至福だった。
職務に支障は出ないからか、クロウも好きなように部屋にいさせてくれるし、少し退屈に感じていた休憩時間がとても楽しみになった。

