部屋の奥側には執務用の机と椅子。右と左の壁には大きな本棚。
どの家具も手彫りのツタや羽があしらわれており、本棚の上には羽箒と羊皮紙の束、足元にはいくつか本の山が無造作に置かれている。
そんな部屋に立ち入った瞬間、紙とインクの匂い、それとコーヒーのほのかな香りが鼻腔をくすぐり、前世で好きだったブックカフェを彷(ほう)彿(ふつ)とさせてくる。
アウルの体になってからお子様舌のせいか、苦いものをとんと受けつけなくなってしまったので、コーヒーは大人になってからの楽しみのひとつだ。
卓上に書きかけの書類があることから、まさにクロウが執務中であったことを示しており、彼は部屋の扉を閉めるとすぐに机に戻っていった。
そして仕事を再開させて、難しい顔で書類を睨み始める。
(執務室で仕事してる姿は初めて見たな。やっぱりこの領地って開拓とか経営が難しい場所なんだな)
判断力や分析力に優れるあのクロウが、頭を悩ませて苦しい顔をしている。
このマグノリア領の厄介さが彼の顔色からひしひしと伝わってきた。
頻繁に魔物や自然の災害に襲われ、思うように農業や畜産ができず、領民も増えづらい土地。
特産品と呼べるものもなく、注目されるような行事もないから領地を盛り上げる糸口も皆無。
広がるのは魔物が多くて危険な場所という悪評ばかり。
そんな魔境みたいな領地を弱冠二十歳の青年がたったひとりで任されたとなれば、苦悩に顔を歪ませるのも必然というものだ。
それでもできることを少しずつやっていて、今も領地を安定させるために必死に頭を回している。
改めて彼の置かれた状況の大変さを目の当たりにしたアウルは、仕事の邪魔をしないよう、なるべく物音を立てずに本を物色することにした。
近くの本棚にトテトテと近づき、とりあえず手近な本を一冊引っ張り出してみる。
しかし中は小難しい文章が羅列されており、まだこの世界の言葉に慣れていないため非常に読みづらく感じてしまった。
(うぅ、小学生ながら背伸びして、図書館で本格ミステリーの小説を借りた時と同じ目の滑り方をしちゃってる)
拒否反応が出たのですぐに戻し、また違う本を手に引っ張り出してみる。
だがやはりどの本も難しい文章で書かれたものばかりで、残念ながら気持ちよく読める本はなかった。
できれば子供向けの本があればちょうどいいのにな、なんて思っていたところに……
(んっ?)
本棚の最上段に、背表紙に絵が描いてある子供向けと思しき本を見つけた。

