「……うっ……んん」
暗い意識の中。
翼の視界に突如として光が差し込んでくる。
翼はそれを、自分が目を開けたからだと遅れて認識し、半開きのその目をゆっくりと開いていく。
すると視界にまったく知らない天井が飛び込んできて、自分が仰向けで寝ていることにも今さら気が付いた。
(……ここは、どこだ?)
いまだに意識がぼんやりとする。
会社の階段を踏み外して転落し、その後の記憶がまるでない。
ということは、ここはまさか病院だろうか。
あの時、意識を失った後に奇跡的に誰かが通りがかってくれて、救急車を呼んでくれたのではないか。
あれだけの量の血を流して生きているなんて……
という考えは、横から聞こえてきた声によって完全に否定されてしまった。
「あぁ、起きたのですね。アウル(・・・)様(・)」
「――っ!」
ぐいっと首を動かして声のした方を見ると、そこにはメイド服を着て窓を拭いている金髪で碧(へき)眼(がん)の女性がいた。
明らかに日本人の風貌ではない。コスプレにしたってあまりにもナチュラルである。
しかも部屋の風景がどう見ても日本の病室ではなかった。
壁や家具など、基本的な構造は木造りになっている。最初に見上げていた天井も改めて見たらレトロな雰囲気を醸し出す木造だった。

