コンコンコンッ。

「誰だ」

「ア、アウル、でしゅ」

 クロウの声が聞こえて返事をすると、なぜか少しの間沈黙が訪れた。
 ペンを走らせていたと思われる音も途切れてなにも聞こえなくなってしまう。

(お、驚かせちゃったかな……?)

 やがて中でカーペットを踏みしめる音が鳴り、それが次第に近づいてくると、ガチャッと目の前のドアが開けられた。
 多忙を極めていたと思われるが、クロウの顔には疲労感は漂っておらず、相変わらず無感情な顔でアウルを見下ろしていた。

「ロビンはどうした? 一緒ではないのか?」

「いまは、きゅうけいじかんだから、ひとりで……」

「あまりひとりで部屋を出歩くな。貴様になにかあれば侍女のロビンに責任が寄せられるのだぞ」

「……ごめんなしゃい」

 確かにその通りだとアウルは反省する。
 中身は大人でも五歳児。勝手に部屋を離れて万が一のことでもあったら、身の回りの世話をしてくれているロビンが糾弾されることになる。
 そこまで考えてもっと慎重に行動するべきだった。
 そのことを後悔して申し訳なく思っていると、心なしかクロウは冷たかった声音を若干柔らかくして問いかけてきた。

「それで、なにか用か」

「クロウおにいしゃまのおへやに、本がいっぱいあるって、おちえてもらって……」

「なにか読みたいということか」

 クロウを見上げながらこくこくと頷き返す。
 すると彼は少し考える素振りを見せた後、入れと促すように半開きだった扉を全開にして言った。

「好きに探せ。騒がしくしないようにな」

「は、はい」

 入室を許可されて、アウルは緊張しながら執務室の扉を潜(くぐ)る。
 部屋の中は、濃い栗色のオーク材で造られたシックな家具によって統一されていた。