魔力の感覚を掴んで上手く操作できるようになれば、魔道具や魔法薬の製作に生かせる。
 そうすれば恩人のクロウや屋敷内でよくしてくれている使用人たちを手助けできるようになるかもしれない。
 早く役に立てる存在になれるように頑張らなければ。
 そうして熱を入れて勉強に励む中、〝休憩時間〟の過ごし方についてもアウルは少し悩んでいた。
 ロビンが勉強の合間に二時間ほど休む時間を与えてくれているが、早く魔力の感覚を掴みたくてアウルは休憩中も勉学に勤しんでいた。
 それを見たロビンが、休息も大事だから無理はしないようにと勉強道具であるノートとペンを仕舞うようになってしまったので、現在は休憩中に手持ち無沙汰になってしまっている。
 おもちゃとか色々用意してくれたが、精神年齢三十過ぎの男が退屈を紛らわすには少々チープな品々だった。

(そういえば執務室に本があるって言ってたっけ?)

 ふとロビンから聞いた話を思い出す。
 この屋敷に住んでいた前の住人の主は、本好きで有名な人物だったらしい。 
 まだ難しい文章は解読に手間取るけど、せっかく文字も読めるようになったので休憩時間は本を読んで過ごしてもいいかもしれない。
 シンプルにこの世界の書物がどんなものなのか知ってみたいという好奇心もあるから。
 そう、いつもクロウが仕事で使っている部屋だ。
 そこに本を取りにいくのはすごく憚(はばか)られてしまう。
 単純にまだクロウが怖いという気持ちもあるけれど、それ以上に仕事の邪魔になってしまわないかとアウルは懸念している。
 ただでさえ任されたばかりの領地の開拓で頭を抱えているというのに、そんな時に少しの邪魔もしたくはない。
 さっと本だけを取らせてもらえば大丈夫だろうか。
 休憩時間中ロビンは部屋から出て、他の使用人たちの手助けをしているためアウルはひとり。
 だから自分で本を取りにいかなければならず、とりあえず私室を出て執務室の様子を見にいってみた。
 すると中から紙が擦れる音やペンを走らせる音が聞こえてきて、作業している様子が窺えた。
 留守にしているならこっそり入って本だけ取ろうと思ったが、やはりいつも通り忙しそうに執務室に缶詰めしているらしい。

(は、入りづらい。でも入らなきゃ本が取れないし……)

 しばし執務室の前を行ったり来たりして悩んでいると、不意に休憩時間のことが脳裏をよぎる。
 休憩時間は二時間。まだ余裕はあるがもたもたしていたらロビンが戻ってきてしまう。
 あまり部屋を出歩かないようにと言われているので、休憩時間が終わって部屋にいなかったら心配させてしまうかもしれない。
 そう思ったアウルは覚悟を決めて、緊張しながら執務室をノックした。