人を従わせるのに必要なのは、本当に力と威厳だけなのか。
 父の言動は先導者として、本当に正しいものなのか。
 兵士たちから向けられていた憎しみに満ちた視線を、自分もいつかは浴びなければいけないのだろうか。
 結局、ボイコットした兵士たちもレイヴンを支持する世論の圧力に押されて、不満を残しながらも軍事作戦に再び参加するようになった。
 結果だけ見てしまえば力と威厳によってすべてが丸く収まってしまい、加えて十五年間貫いてきた姿勢をそう簡単に崩せるはずもなく、クロウは二十歳になった今でも情け容赦のない厳格な態度で周囲に接し続けている。
 ……ただひとりを除いては。

『ア、ウル……。アウル、でしゅ』

 任されたばかりの領地で思いがけず拾うことになってしまった子供アウル。
 これからまさに忙しくなるだろうというタイミングで、また厄介な拾いものをしてしまったとクロウは辟易した。
 しかしアウルといると、張り詰めていた気持ちがすっと解かれるような気分になった。
 子供は苦手なはずなのに、アウルを見ていると肩に入っていた力も抜けていった。
 今までに感じたことのない不思議な感情。
 アウルと一緒にいれば、凝り固まった自分の考えがなにか変えられるような気がする。
 なによりこの子供をひとりで放っておけないと思ったから、我知らずアウルを拾うことにしていた。
 魔力に属性がないと判明した時も、才能がないのなら見捨てるという選択もできたはずなのに、なぜか理由をつけて庇うような真似をしてしまった。
 この気持ちの名前を、クロウはまだ知らない。