翼はこのように、昔から人より不幸に見舞われることが多い体質だ。
子供の頃からしょっちゅう怪我をする。
大事な用の時ほど大幅な電車遅延で遅刻をする。
とても厳格な両親だったから家でも気が休まらなかったし、小中高の入学式はおたふく風邪や交通事故など決まってやむを得ない理由が生じて休んでしまい、クラスにとけ込めずぼっちになっていたし。
誰かが仕組んで不幸な人生を歩まされているのではないかと何度疑ったことか。
結果、馴染んでしまった口癖は「いいことないな」である。
「はぁ……」
今度こそ本当のため息を吐きながら、終わりが見えない仕事を淡々と進めていく。
ため息を吐くと幸せが逃げると言うけれど、そもそも幸せではないからため息が漏れるのではないだろうか。
なんて生産性のないことを考えながら、終電の時間を頭によぎらせて区切りのいいところで手を止める。
「……ふぅ、こんなもんでいいか」
最低限今日のうちに終わらせておくべきことはやった。あとは明日の自分に託す。
明日の朝に再開する仕事を付箋に書いて、モニターの端にペタッと貼っておく。
それから退勤打刻をして席を立ち、十二時をまわった時計が目に入って急いでオフィスから出た。
最寄り駅まではそこそこの距離がある。小走りでなんとか終電に間に合うかどうかだ。
労働で酷使した体にさらに鞭(むち)打つことになりそうで、辟(へき)易(えき)しながらエレベーターへと向かう。
そこで翼は泣きっ面に蜂と言わんばかりのもう一撃を食らうことになった。
「はっ? 点検中?」
エレベーターの前にはこんな時間にもかかわらず、【点検中】の立て札が残酷にも置かれていた。

