「大したことはない。それに俺も最近になって菓子作りに魔法を生かせるのではないかと悟ったからな。アップルパイを作った際もこうすればもっと楽だったと……」
瞬間、クロウがハッとした様子で口を噤む。
しかしアウルの耳には確かに彼の言葉が聞こえていた。
(アップルパイを作った際も……?)
前に領内の氷不足を解消した際、褒美としてアップルパイをくれたことがある。
その時は腕利きのパティシエを呼んで作らせたと言っていたが、今の口ぶりからするとあれを作ったのはパティシエではなく……
(もし自分で作ったのなら、確かにクロウは自作のものだとは言わないだろうしな)
あのアップルパイを手掛けたのはクロウで間違いないと密かに確信していると、彼は目を逸らしながら咳払いを挟んで続けた。
「……とにかく、魔法でできそうな部分があれば、同じように魔法で賄っていくぞ。しかしアウルとしてはこれでよいのか? やや自動的というか情緒に欠ける景色になっているが……」
「まほうでもあいじょうはこもってましゅ! あとおいちくつくれるなら、それがいちばんでしゅ!」
「……美味しく作れるならそれが一番、か。子供はたまに大人が忘れているような核心をついて怖いな」
心なしか微笑んだように見えたクロウは、頷きながら追加の材料に手を伸ばす。
「アウルがやりたかった菓子作りと相違ないようであればそれでいい。では一気に仕上げてしまうか」
どうやら魔法の力を抑えていたらしく、クロウは大きなボウルに卵と砂糖を大量に投入し、魔法でぐわんぐわんとかき混ぜ始めた。
情緒がないのではと危惧して全力を出していなかったらしい。
それからほどなくしてすべての卵液を混ぜ終えると、そこに薄力粉をふるいながら入れて再び全体を混ぜて馴染ませる。
ここは力よりも丁寧さが大事で、アウルでもできる工程なのでぐるぐると混ぜてお手伝い。
これで生地は完成だ。

