水や泥でぐしゃぐしゃになった顔で笑い合い、その姿をそばで見ながらクロウは告げた。
「よし、大部分の鎮火はこれでいいだろう。ここから見るに、他の班の消火活動も滞りなく済んだようだしな」
確かに遠方では同じように火事を止めて喜び合う別の班の人たちが見える。
こちらほど規模の大きいものではなかったが、他も無視できないほどの火事だった。
それをほとんど同じタイミングで止めたということは、みんな相当力を尽くしてくれたのだとわかる。
魔物が炙り出されて領都の方へ向かったような気配もなく、危惧していた出来事はすべて回避できたようだ。
クロウを含め、彼が率いるこの領地の兵士たちは相当に逞(たくま)しい。
「あとは残り火がないか手分けして見回ってくれ。それから……」
クロウは火の手を収めてすぐだというのに、あれこれテキパキと兵士たちに指示を出す。
そして兵たちも疲弊しながらも力強く返事をしてきて、淀みない足取りで残り火の捜索を開始した。
その様子をフェンリルと共に眺めていると、不意にクロウが歩み寄ってきて目の前で屈んでくる。
なんだろうと思って見つめていると、彼は突然閃くような速さでこちらの背中に両腕を回してきて、ぎゅっと力強く抱きしめてきた。
触れている腕や肩からは強張った様子が伝わってくる。
「どこにも怪我はないか? 体調に異変なども感じないか?」
「だいじょうぶでしゅよ、クロウおにいしゃま。ぼくもフェンリルしゃんもなんともないでしゅ」
「……そうか。本当にふたりとも素晴らしい活躍だったぞ。見事な魔法だった」
「クロウおにいしゃまもしゅごかったー!」
「ガウガウ!」
恩人であり尊敬するクロウに手放しに褒めてもらい、アウルは達成感と嬉しさに満たされた。
やはりまだ少しの罪悪感は残っていたけれど、クロウにアウルはなにも悪くないと言ってもらったので随分と気持ちは軽くなっている。
本当に悪いのはドレイクとヒルマイナの方だと。
ふとそのことを思い出して周囲に視線を泳がせると、クロウも同じことを考えていたようで、抱擁を解いて辺りを見渡した。
「結局アウルの両親は姿を現す気配はなかったな。消火活動中、それらしい影は見かけたか?」

