アウルを洗脳してしまえば、たとえ向こうが正式な手順で捨て子を拾った届け出をしているとしても状況は逆転する。
王国側と教会側は子供の意思を尊重するはずなので、実家への返還を余儀なくされるというわけだ。
ただこの手段を取るには現実的な問題があり、ヒルマイナは馬車の窓から外を見ながらそれを口にする。
「見たところアウルはあの領都マノリア内の屋敷に住んでいると思われます。加えて領地に利益をもたらす重要性から従者や護衛が常にそばにいると考えられますので、誘拐を実行するにしても場所とタイミングがとても難しいです」
実際に今回の訪問で立ち入ることができたのも領都の入口までだった。
だというのにその先の屋敷まで行って、監視の目が多い中で子供ひとりを攫うのはいくらなんでも不可能だと言い切れる。
それはドレイクも承知の上だった。
「言われずともそんなことはわかっている……! 逆に言えばそこさえ突破できてしまえば誘拐は現実的だということだ」
「い、いかがいたしますか、ドレイク様……?」
ヒルマイナにそう問われたが、簡単に答えが出るはずもなくドレイクは小刻みに揺らしていた足をさらに強く動かし始める。
その時、帰路を辿る馬車が見晴らしのいい草原から、薄暗い森の中へと入っていった。
ドレイクが指示を出して従者にアウルを捨てさせにいった、すべての起点とも呼べる場所――ブランチの森。
密集する木々と木の葉で陽光が遮られ、馬車に影が落ち、それに気付いたドレイクがふと窓の外を見る。
「……この森、使えそうだな」
「えっ?」
不意にこぼれた呟きに、ヒルマイナが怪訝そうな顔を向けてきた。
ドレイクは窓の外、ひいてはブランチの森を親指で示しながら不敵な笑みを浮かべる。
「これだけ領都に近い場所に、こんな広大な森があるのだ。使わない手はない」
「具体的にどうお使いになるというのですか?」
「簡単な話さ。〝火〟を放つ」
「えっ……」
「森で火事を引き起こすんだ。領都の近くで大火事が起きれば、火の手の広まりと魔物の流出に怯え、都の中は確実に大混乱に陥る。そうすれば容易に領都への侵入が叶い、アウルを連れ出すのも現実的になる」

